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AMDの革命的な半導体製造技術の粋“APM”とは?(1/2 ページ)

» 2004年12月10日 23時10分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 言うまでもないが、半導体製造において、歩留まり向上は企業力に繋がるもっとも大切な要素の1つである。このことは新製造プロセスや新工場のデキひとつで、大きく業績や製品の力が変化するプロセッサ業界を見れば一目瞭然だろう。

 だからこそ、半導体技術に強く依存する企業は収入の多くを半導体製造部門へと投下する。とはいえ、半導体、特に最先端の分野ではプロセス開発のコストは増大する一方だ。より多くの資本を投下し、より良い製品を作り出し、より多くの資金を回収し、次なる投資を行う。そのサイクルを大規模に行った者が圧倒的に有利な事は言うまでもない。

 そうした業界構造の中で、AMDはライバルに比べ小さな規模ながらx86互換プロセッサやフラッシュメモリの分野で大いに健闘していると言えよう。

 米AMDコーポレート製造グループ製造技術ディレクタのトーマス・J・ソンダーマン氏にAMDの半導体製造技術について話を伺った。

 かつて「Pentium Pro」や「Pentium II」対抗の「K6」時代、歩留まりが向上せず苦労していたAMDを知る世代の中には、さらにそのずっと以前、AMDが半導体製造において優れた生産効率を誇っていた事を知らない人がいるかもかもしれない。しかし、そのころのAMDは、インテル製プロセッサのセカンドソースビジネスで、本家インテルのビジネスを脅かすまでに至り、インテルが製造していない高クロック動作品まで提供していたほど、AMDの半導体製造部門は強みを持っていた。

 その後、さまざまな理由で一時的な低迷を味わったAMDだったが、決して半導体製造技術におけるプライドや自信を失ったことは無かったという。彼らの自信の源は“APM”というシステムと、そのシステムを構築するためのコンセプトにあったようだ。

 APMとはAutomated Precision Manufacturing、つまり自動調整製造というものである。半導体を製造する上で発生するさまざまな問題を検出し、検出した結果を自動的に製造プロセスに反映して、調整しながら製造ラインを動かすための技術、システム、ノウハウだ。

 AMDはAPMを80年代から採用し、調整要素を増やし、自動調整のためのソフトウェアを熟成させ、装置間の連携を強めるためのノウハウと技術を蓄積してきた。

 AMDはインテルから約半年遅れとなる2004年8月から、ドイツ・ドレスデンにある「Fab30」で90ナノメートルプロセスのプロセッサ製造を開始している。AMDの90ナノメートルプロセスはSOIと9層銅配線、Low-k層間絶縁膜を採用し200ミリウエハーでの製造が行われているが、ソンダーマン氏によると全く問題なく歩留まりは素早く向上しているという。リーク電流の大幅増大も認められず、各製品の消費電力は同一クロック周波数ならば下がっているとしている。

――AMDの製造部門に力を与えているAPMとはどのようなシステムなのか?

 「APMによって我々は俊敏性を得ています。製造技術の精度を上げ、新しい製品の製造や新しいプロセスを素速く立ち上げることができます。我々の製造ラインは高いレベルで自動化されており、製造ラインの中のさまざまな機器が共通のソフトウェアインフラの中で統合的に制御されているのです」「APMには2つのアプローチがあり、1つは物理的にウエハーが異なる製造プロセスへと移動するところで自動的にチェックし、その結果をフィードバックしながら各装置が連携するものです。もう1つは製造装置がきちんとターゲットのパフォーマンスで動作し、さらにプロセスを施すごとに歩留まりに大きな変化がないかを確認し、異常があった場合はそれを調整するものです。我々はAPMに関して最も早くから取り組み、すでに300以上の特許を取得しています」

AMDのソンダーマン氏 米AMD製造技術ディレクタのトーマス・J・ソンダーマン氏

――APMは製品に対し、直接的にどのようなメリットをもたらしているのか?

 「既存製造技術のパフォーマンスを上げたり、消費電力問題の解決などのプロセス改良、それに全体的な歩留まり向上などの成果が出ています。中でも、新技術を実際の製造ラインに簡単に実装できる点は、我々のユニークなところでしょう」

 「我々は『ミックストマニュファクチャリング』と呼んでいますが、自動化が徹底されているため、新プロダクトや新プロセスの実験製造を、パイロットラインで確認するのではなく実際に製品を作っている現場のラインで行えてしまうのです」

――AMDの言うAPMと同様のコンセプトはライバル、たとえばインテルも導入している。AMDが持つアドバンテージは何になるのだろうか?

 「APMの生みの親は私たちです。我々はAPMを自分たちの競争力を高めるための鍵として、製造装置を同じプラットフォーム上で徹底的に統合し、改善に取り組んできました。先行者故のノウハウがあります。他社のAPMでは調整の自動化はできても製造パフォーマンスは落ちてしまうといったことがあり、我々のようにパフォーマンスと自動化の両立にまで至っていません。我々のAPMは、あらゆる面で完全な自動化を図っており、純粋な意味で人的要素が一切入りません。製造の成果が自動予測可能ですし、ひとつひとつのウエハーを完全に自動装置でトラッキングしています。他社が我々をこの分野で追いかけているのは当然でしょうが、我々もまた前に進んでいます」

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