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MCIめぐる買収劇、決着はまだ?

» 2005年03月30日 11時48分 公開
[IDG Japan]
IDG

 米MCIの取締役会はVerizon Communicationsからの最新の買収提案を受け入れると決定したが、これはVerizonとQwest Communications Internationalの買収合戦が終わったという意味ではない。アナリストらは3月29日、こう指摘した。アナリストは概してVerizonの方が買収元として適していると見ているが、まだQwestを除外するべきではないとしている。

 「事が決したわけではないと思う」とGartnerの調査担当副社長ジェイ・パルツ氏。「Verizonは勝者に近くなったが、MCIをめぐる戦いはまだ終わっていない。……Verizonが完全に勝ったのかは明らかではない」

 MCIは29日、Verizonからの76億ドル相当の提示額を受け入れ、80億ドル相当を超えるQwestの提案を拒否したことを発表した。MCIとVerizon間、MCIとQwest間の話し合いはかねてから行われてきたが、Ovumの調査ディレクター、ジャン・ドーソン氏が言うには「最近の米通信市場の歴史において最も険悪なエピソードの1つ」だという。

 観測筋の中には、Qwestがもう一度買収提案を行うと予測する向きも、同社が株主に直接提案を持ちかけ、委任状争奪戦に発展する可能性があるとの見方もある。同社はこの日、次のようなコメントを発表するにとどめた。「当社は買収提案の内容と価値を変更するVerizonの権利を尊重するが、当社の提案の方が株主にとって高い価値を生み出すと今なお信じている。当社は現状を評価し、株主、顧客、従業員にとって何が最大の利益になるかを決定する」

 Qwestが方程式の一番最初に株主を置いているように思える点が注目されている。

 「QwestはMCI幹部よりもMCIの投資家を取り込もうとしているようだ」と話すのはCurrent Analysisの上級アナリスト、ブライアン・ウォッシュバーン氏。MCIの従業員は、多額の負債を抱えるQwestがMCIの資産をスピンオフあるいは売却するのではないかと懸念しているかもしれないと、ウォッシュバーン氏をはじめとするアナリストは指摘している。

 MCI株主の多くは、長期投資よりもむしろ短期的なリターンのためにMCI株を購入しているヘッジファンドなので、長期的な展望にはあまり関心がないとコンサルティング会社Communications Network Architectsのフランク・ズーベック氏。

 また、Qwestには動機がある。同社はライバルのVerizonにプレッシャーをかける方法として買収提案を続けたいのかもしれない。「QwestはMCIを手に入れたいのだと確信しているが、VerizonがMCIを手中に収めようとしていたことから、そのプロセスをもっと大変にしてやろうという名案を思いついたのかもしれない」とウォッシュバーン氏。

 もっとも、これまでVerizonは買収合戦に巻き込まれることを拒否してきた。MCIに受け入られた提示額は増額されたものだが、それでもQwestの最新の提示額よりも低いとアナリストは指摘する。「価格の問題ではないと思う。奇妙な状況だ」と独立系通信アナリスト、ジェフ・カガン氏は語る。「MCIはもっと高い金額の方がいいだろうが、Verizonは提示額を引き上げなかった。要するに、MCIはどちらかというとVerizonに買収されたいのだ」

 カガン氏はMCIはどちらの企業にも合うと考えているが、MCI取締役会はVerizonの提案を受け入れるという決定において多数の要因を挙げている。同社が挙げたのは、通信業界の競争が変化していること、規模拡大と包括的なワイヤレス性能の必要性が高まっていること、アクセスの経済、両社がうまく調和できること、資本構成の強さ、ネットワークサービス品質の維持と新分野への投資を継続する能力、大手企業や政府機関の顧客の信頼を確保する最善の方法だった。

 Ovumのドーソン氏は、MCIとVerizonが合併する方がいいという考えを裏付けるために同様の理由を挙げているが、MCIの最近の苦境もその理由の1つだとしている。「MCIはたくさんのトラブルを抱えた会社だ。2〜3年前に体制が崩壊し、破産申請して以来、同社が長い道のりを来たことは明らかだ」と同氏。同社は今財務状態が苦しく、売上と住宅用顧客は減っている。とは言え、同社は米国と各国でかなりの資産を持っており、企業や政府機関の顧客基盤を抱えているとドーソン氏は指摘する。

 同氏によれば、MCIが財務に問題のあるQwestの提案を受け入れたら、「両社はもろともに下降スパイラルに入り、急激に状況が悪化するのでは」と懸念されている。

 VerizonとQwestのどちらが優位に立つかをめぐり数週間にわたって憶測が流れた末、MCIは2月14日、Verizonからの67億ドルの提示額を受け入れた(2月15日の記事参照)。その3日後、Qwestは提示額を増やし、MCIが取締役が決定を下す前にこの提示額を検討し、交渉するための期限が設けられた(2月18日の記事参照)

 MCI(旧WorldCom)は2002年に内部監査で38億ドルの不正会計が発見されて以来、厳しい財務状況にある。同年7月、WorldComは破産宣告し、不正会計の額は最終的に110億ドルに上った。同社は、MCIと名を変えて復活する1カ月前の2004年3月、2000年と2001年の税引き前利益を744億ドル少ない額で修正報告した。

 同社が破産宣告する前、2002年4月にCEO(最高経営責任者)だったバーナード・エバーズ氏は、同社から3億6000万ドル以上の貸し付けを受けたことを問われ、辞任した。同氏は2004年3月に共謀および証券詐欺の疑いで米連邦裁判所に起訴された。同社の元CFO(最高財務責任者)のスコット・D・サリバン氏は有罪を認め、検察に協力することに同意した。エバーズ氏は最近、有罪判決を受けた(3月16日の記事参照)

 QwestよりもVerizonにとって重要となる未知の要素があるとすれば、それはMCIの不正会計に関連する繰り越し損失だとズーベック氏。同社が業績を過大報告していた間、その後の破産期間に蓄積した損失は、買収元の収益に対する節税のメリットをもたらす可能性があると同氏は指摘する。ワイヤレスというドル箱事業を抱えるVerizonはQwestよりも収益性が高い傾向があるため、これらの繰り越し損失は思わぬ税金上の恩恵をもたらすかもしれないという。ただし、繰り越し損失の額は公表されていない。

 MCIが混乱が続く中で経営を続けたように、今回の買収劇は「顧客にすぐに影響することはない」とIDCの調査ディレクター、メラニー・ポージー氏は語る。「いかなる買収でも、(規制当局の)承認などを得るまでに少なくとも1年かかるだろう。短期的には顧客の体験を変えるようなことは起きない」

 短期的には、さらなる買収提案や委任状争奪戦も関わってくるかもしれないと同氏は示唆する。Qwestの積極的な姿勢を考えると、「同社が静かに去るとは思えない」という。

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