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ブログという手段――「おばちゃんOL」がジャーナリストを目指す(2/2 ページ)

» 2005年09月22日 14時05分 公開
[岡田有花,ITmedia]
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マスコミに入れないから、ブログで発信

 知識も経験もスキルもないからマスコミへの就職は無理。発信の手段はブログしかなかった。ネットで知り合った友人がMovable Typeベースのブログスペースを構築してくれた。

 仕事場は、ソーテックのPC 1台を置いた自宅。ネットの知り合いからの取材費のカンパを支えに、なけなしの貯金を切り崩しながらの取材生活が始まった。

 まずはスキルをつけなくてはと、街頭インタビューに繰り出した。テーマは「矯正すべき性的し好って何?」。奈良市の小1女児が誘拐・殺害された事件で、犯人が「ロリコン」だったとあるブログで知り、ロリコン趣味をどうとらえるべきか、多くの人の意見を聞こうと思った。

 新宿の街に出たものの、誰もが怖く見えて、帰りたくなった。「この仕事をするなら、どんな人とでも話せるようにならなくちゃいけないから」――踏みとどまって勇気を振り絞り、100人以上に声をかけた。3人に1人は親切に答えてくれた。「やればできるじゃん!」。しかし秋葉原では1人も答えてもらえず、ひどく落ち込んだ。

 新潟県中越地震に関してネット上で「マスコミの被災者への態度がひどい」と話題になったと知ると、単身で新潟に乗り込み、実態を明らかにしようとした。1人で旅行どころか、食事にも映画も行ったことがなかったという泉さん。前日は不安で「行きたくない」と泣いたが、自分に負けるわけにはいかなかった。

 新潟の深い雪の中、仮設住宅を回って被災者の声を聞き、役場を回って当時の様子を訊ね、ネットカフェで記事を更新した。4日間の取材の結果、「マスコミに失態があったことは事実だが、仮設住宅に住む人は迷惑と感じていない。ネット上のマスコミ非難は、過熱しすぎ」という結論を導いた。

photo 雪に包まれた仮設住宅(泉さん撮影)

 新潟から帰ってきた泉さんは家族を驚かせた。妹は、「本当に新潟行ったんだ!新幹線の切符買えたの?」と目を丸くした。母は「大きな病気をすると、人は変わるものね」としみじみ言った。ジャーナリストの卵は、殻を破り始めた。

ブログでなくてもいい

 泉さんにとって、今は修行の時期。まずは取材に走り回り、スキルを高めていきたいという。街頭インタビューや、嫌がられながらのマスコミ取材は憂うつだが、修行のためと割り切る。つらい時は泣いて泣いて、立ち上がる。読者からのコメントとトラックバック、ページビューが、力となりプレッシャーとなり、泉さんの背中を押す。

 スキルが高まれば、自分が好きなテーマで記事を書きたいという。「頑張っている人を探し出して、世の中に伝えたい。彼らが直面している問題も描き、世の中に『もっと考えるべきことがあるんじゃないか』と提起したい」

 活動を通じて収入を得ることが今度の課題だ。書籍化や寄稿などを勧める人もいるが、既存メディアの利用は考えていない。個人がネットで発信するという今の形で、収入を得る手段を探していく。

 ブログという形にはこだわらない。映像や音声も含めて、最適な発信方法を模索する。

 「ネットはツールに過ぎない。情報発信する上で現時点では欠かせないけれど、他に便利なツールが出れば、すぐにぱっと乗り換えたい」

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