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ひきこもりからIT社長に “paperboy”の軌跡ITは、いま(2/4 ページ)

» 2006年03月20日 10時21分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 外に出なくちゃ――同級生が高校を卒業する頃、バイトを始めた。新聞配達、レストランの調理場……できるだけ人と会わなくて済む職場を選んだが、どれも長続きしなかった。

 絵が好きだった。山田かまちに触発されて絵を描き、恥ずかしい詩も書いたりした。「油画家になりたい」。夢を見つけた。美大に進みたいと思うようになったが、家計は苦しく、お金がなかった。

 「これだ!」――ある日の新聞で、解決策に出会った。住み込みで新聞配達すれば、学費を出してもらえる新聞奨学生の制度。迷わず面接に向かい、芸術への思いを熱く語った。合格。朝と夕方に新聞配達し、昼間は予備校で油絵を学ぶ日が続いた。

 予備校は変わり者ばかり。元ひきこもりでも、誰とも話さなくても浮かなかったが、ほどなく通わなくなってしまう。「“鳩おじさん”になりかけました」

 新聞配達がキツく、学校に行くのが体力的に辛かった。行ったふりをして、公園の鳩に餌をやって過ごしていたら、同級生に見つかり、気まずい思いをしたこともあった。

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 目指していた東京芸術大学は、2年連続で落ちた。落ちたというより、受けられなかった。1年めはセンター試験を受けそびれた。2年目は、試験前日に見つけた24時間営業のジーンズ店に深夜まで入り浸ってしまい、ホテルに戻って起きた時には試験が終わっていた。

 その直後、父が仕事中に交通事故にあう。運送トラックがぺちゃんこになり、長期入院を余儀なくされた。父の借金も発覚した。家庭がぐちゃぐちゃになり、両親が離婚した。長男の自分が働くしかなかった。職を探した。

 社会人のスタートは、小さなデザイン事務所。予備校時代に買ったPower Mac 7500で作ったポストカードやポスターを見せると、即採用された。

 職場でインターネットに出会い、Web制作に興味を持ち、システム会社に転職する――が、仕事は開発作業ばかり。ソニーのノートPC「VAIO」を買い、家でWeb制作に勤しんだ。個人サイトを立ち上げ、描き貯めていたデザイン画をアップし、掲示板を設置した。見知らぬ人から「かっこいいデザインですね」なんて言われるのが嬉しかった。

 2ちゃんねるにもハマった。「祭り」に乗るのが楽しくて、当時の祭りのネタだった、中国初の2足歩行ロボ「先行者」に関するジョークサイトや、田代まさしが「Time」の表示を飾るコラージュ画像を公開し、評判になった。「2chでわーわー言われて、愉快でした」

photo 先行者のサイトは職場で作ったという。「バナーを張ってて、儲かるかな?と思ったけど1日10クリックぐらいだった」。先行者は人気サイト「侍魂」で紹介されて一気にブレイク。某ネット誌が似たプラモデルを付録に付けたりした

 女子高生だった今の奥さん・明子さんと出会ったのも、インターネットだった。

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