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» 2006年07月18日 11時50分 公開

新興市場の上場基準に売上高10億円はいかが?金融・経済コラム

経済番組コメンテーターであり、M&Aアドバイザリーや財務コンサルティングを手がける保田隆明氏がIT業界を金融・経済面から語る連載コラム。今回は新興市場の上場基準引き上げの必要性がテーマです。

[保田隆明,ITmedia]

 周りにいるインターネット、IT系のベンチャー企業経営者に次の3つのうちどれが一番困難だったかを聞くと何と答えるでしょうか?


  1. 売上高1億円突破
  2. 売上高3億円突破
  3. 売上高10億円突破

 私の周りの人たちに聞く限りでは、3番目の売上高10億円突破が最も困難だったのではないかと思います。ということで、新興市場の上場基準として売上高10億円以上を導入すべきではないかというのが今回のコラムテーマです。あくまでも1つの案ですが。

 個人投資家、機関投資家問わず「どうしてこんな企業が上場できたんだろうね」というセリフをよく聞きます。例えば、売上がたったの数億円の会社、社員が10名以下の企業でも新興市場に上場していますが、それらの企業に関しては「普通に考えて上場するには早すぎるだろう」と多くの人が思っているわけです。にも関わらず上場できているということは、2つの理由が考えられます。1つは、売上や社員数に関係なく、他に類を見ないぐらいの成長企業であるので上場審査をパスしたという理由、もう1つは、上場の審査基準が甘く本来であれば上場すべきではない企業が上場している、というもの。おそらく多くの人たちが後者を想定しており、新興市場を市場としては二流と考え、株価もいい加減だろうと思ってしまうわけです。そして株価が乱高下する。

 本来、ベンチャー企業の将来性を評価するというのは非常に高度かつ困難な仕事です。それゆえに、そういう困難な仕事をやってのける新興市場は、大企業をたくさん抱える市場よりも価値あるものになりえます。しかし、実際には二流扱いをされています。これは、新興市場での上場審査基準が不明確なことが理由ではないかと思います。

 もともとは、東証(東京証券取引所)の上場基準が厳しすぎて、ベンチャー企業にとっては機動的な資金調達の道が閉ざされていたので、もう少し柔軟な審査基準を運用するベンチャー企業向けの市場があってもいいのではないか、ということで新興市場が誕生したわけです。しかし、ここ数年で市場参加者層もガラリと変わってきましたし、今こそ、誰の目にも明らかかつ分かりやすい上場基準というものを導入すべきではないかと思います。

 上場は資金調達のためであり、資金調達の必要性のない企業は上場すべきでないという議論もありますが、そうは言っても日本では「上場企業=信頼性が高い」という考えが強く、ビジネス上は上場企業であるということが非常に重要になります。従って、いくらあるべき論を論じたところで、資金調達のニーズがない企業の上場がなくなることはないと思います。

 逆に、上場をすれば信用力が「異常に」高まるのが日本のビジネス界。つまり、売上高数億円の企業が、本来であれば売上高10億円を突破するのは非常に困難だったのに、上場企業というステータスを獲得したがゆえに楽々と10億円を突破するということも大いにあり得ると思います。言い過ぎた表現をすると、新興市場が上場企業にしてあげたがゆえにそれらの企業はうまく行く、もっと言えば、利益供与的な面すら考えられます。

 もともと、東証マザーズなどの新興市場の上場基準に売上高の金額を設けなかったのは、業種によって売上の規模がさまざまだから、一概に売上高の基準を設けるのはナンセンス、ということだと思います。しかし、当時はブロードバンド環境も整備されておらず、インターネットにもまだダイヤルアップで接続するような時代でした(たった数年前ですが)。そして、インターネットのビジネスモデルも確立されていませんでした。しかし、いまやインターネットがキチンとビジネスになり、お金になるというのは誰の目にも明らかです。時代は変わったのです。

 新興市場の株価指数は昨年高騰し、今年は大幅に下落しています。典型的な乱高下市場であり、今年になってからの下落局面では大きな損失を抱えた個人投資家も多く存在すると思います。彼らにしてみると、「絶対に儲かると言われて参加したギャンブルで、何がなんだか分からないうちに大損させられた」と思っているでしょう。幅広い投資家層の育成を大きな目標にしてきた証券取引所関係者にしてみると、なんとも皮肉なことになっているわけです。なるべく早期に是正が望まれると思います。

 売上高10億円はあくまでも一例ですが、「上場」が日本ビジネス界では「品格」の代名詞になっているのであれば、それにふさわしい企業としては売上高10億円を突破するぐらいの困難を成し遂げた企業、というような分かりやすい基準が必要だと思います。売上高10億円までのステージで資金調達の必要性があれば、上場ではなく、ベンチャーキャピタルなどからの資金調達でも十分間に合うはずです。

 新興市場のマザーズを東証から切り離した方がいいのではないか、という議論がにわかにわき起こっています。しかし、それよりも先に新興市場の上場基準の見直しをする必要があるのではないかと思います。

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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