だまされてはいけない。米Microsoftが鳴り物入りで発表した開発の基本方針には、本当の意味での譲歩など何も含まれていない。この10年間、PCメーカーやソフトウェアパートナーとのMicrosoftの取引に目を光らせてきた観測筋に言わせれば、「Microsoft」という単語と「基本方針」という単語はどうもしっくりなじまない。
1994年にMicrosoftとの間で交わした和解合意の条件に同社が違反しているとして、米司法省がMicrosoftを相手取った独禁法訴訟を起こしてから、今年10月で10年になる。裁判は何年にも及び、そこで提示された数々の証拠からは、OEMパートナー各社を巻き込んでのMicrosoftの無節操な商慣行が明るみとなり、結局、MicrosoftはWindowsの独占状態を濫用したとして有罪判決を下された。それ以来、Microsoftは国内外でさらに多数の独禁法訴訟を起こされてきた。
それはすべて終わった話だ、とMicrosoftの幹部らは主張している。同社は教訓を学んだのだという。それを証明すべく、Microsoftは7月19日、開発指針となる12項目の「新しい」原則を発表した。これらの原則により、パートナー各社や顧客との間でより良い関係を築けるはずだと同社幹部は語っている。
Microsoftがこれらの原則を発表したのは、「競争機会を促進し、開発者やユーザーに対するWindowsをさらにアピールするため」という。なお、この原則を発表する1週間前に、同社は欧州委員会から3億5700万ドルの罰金を言い渡されている。
JupiterResearchのアナリスト、ジョー・ウィルコックス氏は「これらの“新しい”指針には新しい点などほとんどない」と指摘しているが、わたしもその意見に賛成だ。
Microsoftの観測筋の中には、「OEM各社がデフォルトの検索エンジンをMSN Search以外のものにも設定できるようにする」という方針を評価している向きもいる。だが、MicrosoftがInternet Explorer 7のデフォルトの検索エンジンをMSN Searchにしようとしていることに対し、Googleが異議を申し立てようとした際、司法省はその動きには乗らず、VistaのIEではデフォルトの検索エンジンを簡単に変更できるはずだ、と指摘している。そういうことならば、Microsoftは最初から予定していたことを改めて指針として示す必要などあるのだろうか?
APIに関してもそうだ。MicrosoftがWindowsには秘密のAPIなどないと主張するのを、われわれは何度耳にしてきたことだろう。Microsoftが非Microsoftの開発者に対して何も隠していないということならば、なぜすべてのWindows APIとWindows Live APIを文書化するということをわざわざ新たに約束する必要があるのだろうか?
Microsoftが2006会計年度の締め日直前となる6月29日に、Office 2007のリリース時期を数週間から数カ月程度延期すると発表したため、それ以来、当然ながら、Microsoft観測筋の間では、Windows Vistaのリリース時期も延期されるかどうかをめぐり、憶測が飛び交っている。
Microsoftが延期を避けるべき理由はたくさんある。再度のリリース延期となれば、以下のような影響が考えられるからだ。
いくらMicrosoftが「今後はサービス分野に力を入れる」とアピールしようとも、現実には、依然として、WindowsとOfficeの売り上げがMicrosoftの収益の多くを占めている。Vistaの出荷が遅れれば遅れるほど、Microsoftが同製品から売り上げを得るための時間も長くかかることになる。
その一方で、MicrosoftにはVistaのリリース延期を検討すべきもっともな理由も同じくらいある。結局のところ、Microsoftは既に2006年の年末商戦期の目標を逸しており、パートナー各社も既にVistaのリリース延期への対応を済ませている。そのため、例えば、Vistaのリリースをあと数カ月延期すれば、Microsoftはその分、ユーザーに「Vistaにはあまりバグがないから、Service Pack 1のフィックスセットなしで動作させても致命的なことにはならない」と判断してもらえるようになるかもしれない。
テスターと話をした限りでは、おそらく、Microsoftが「Vistaを製造工程向けに今秋リリースする」という目標を達成するのは難しいだろうとわたしは思う。話をしたテスターの多くは、Vistaのリリースがさらに遅延されたとしても、特に問題はないと語っていた。なかには、最終版の問題点をきちんと解決するためであれば、さらに1カ月から3カ月程度の遅れはむしろ歓迎だと語る向きもいた。
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