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EMI-Appleの決断から、企業向けDRMを考える

» 2007年04月10日 17時19分 公開
[Jim Rapoza,eWEEK]
eWEEK

 ディンドン! 悪い魔女は死んだ! デジタル権利管理(DRM)は何度も何度も弾丸を食らった。そしてこの間のAppleとEMIの合意はとどめの一撃だ。昔の西部劇の悪役のように、DRMは膝をついて言うんだ――「あんたの勝ちだ、保安官」と。

 いや、そうはいかないかもしれない。考えてみれば、DRMは実際はむしろ80年代のスプラッタ映画の敵役に近い。死んだと思ってもいつもよみがえり、人里離れたキャンプ場で犠牲者を追い回す。

 しかし、AppleとEMIの契約が、DRM技術の利用とこの技術に対する認識の両方を大きく変えることは間違いない。最大手オンライン音楽サイトと世界最大の音楽企業の1社が、DRMは役に立たないどころか売り上げに悪影響を及ぼすということで意見を一致させたことは、オンライン音楽、映画、ソフトにおけるDRMの採用を大きく減らすことにつながるはずだ。

 とは言え、これはDRM賛成派にとって後退ではない。単なる戦略の変更だ。DRMを製品に組み込もうとする新たな試みが出てくることは十分予想されるし、DRMの回避を困難にしようとするたちの悪い法案がもっと議会に提出されるのは確実だ。

 それから、映画会社と音楽会社の幹部がコンテンツの自由配信に改宗したなんて1秒たりとも信じてはいけない。小さな子どもがアイスクリームやクッキーを嫌いになったりしないのと同じように、彼らが厳しいDRMを要求しなくなることはないだろう。

 しかし、音楽や映画などの著作権付きコンテンツ分野でDRMの効果に対する見方が変わりつつあることを考えると、別の権利管理の分野――企業向けの権利管理でも変化が起きるのではないかと思った。

 権利管理を利用している企業にとって、これは重要な企業データ・文書を保護し、各種規制や法律の遵守を確実にする合理的な方法だ。

 権利管理は企業世界ではコンテンツ業界ほど一般的ではないが、多くの企業がAdobeやMicrosoftなどさまざまなベンダーの権利管理システムを使っている。こうしたツールは、特定の文書や電子メールを閲覧できる人を規定したり、コンテンツの共有、印刷、画像ファイルとしてのキャプチャを制限することができる。

 ただ映画や音楽の保護に使われているDRMと同様、企業向け権利管理は絶対安全とはとうてい言えない。こうした技術のほとんどは、コンピュータの構成を変える高度な手法や、デジカメやカメラ付き携帯でコンピュータの画面を撮す単純な方法でさほど苦もなく回避できる。

 もちろん、エンターテインメントDRMと企業向け権利管理にはもう1つ共通点がある。本気の海賊版業者や産業スパイ、内部告発者を阻止できるように設計されていないという点だ。この形の権利管理の主な抑止力は煩わしさだ。つまり、権利管理ツールを回避するのに手間が掛かりすぎるため、ユーザーが制約を受け入れるようになることを期待しているわけだ。

 だがわたしにとってこれは長所とは言えない。すべての形態の権利管理の究極の弱点だ。

 ほとんどの人が問題に出くわしたときに示す生来の反応は、問題を引き起こしたものを使うのをやめる、というものだ。

 音楽と映画の場合、苛立たしいDRMの制約の元を避け、BitTorrentやファイル交換ネットワークなどに目を向けるということになる。

 企業向け権利管理の場合は、仕事を早く終えるために、企業のインフラを避け、制限があって余計な作業を伴う社内のメールやアプリケーションを使わず、GmailやGoogle Appsなどのサービスを使うようになる。そうなり始めてから、企業向け権利管理の導入が、そもそもの導入のきっかけになった問題を解決するどころか、新たな問題を引き起こしたことに気付くかもしれない。

 権利管理をめぐる議論の中で、1つ見落とされがちなことがある。人はたいてい正しいことをしたがるという点だ。

 合法的なコンテンツ供給元を手ごろな価格で便利に使えるのなら、皆それを使うだろう。2〜3カ月もすれば、iTunes StoreでのEMI製品の売り上げが目に見えて増えているかどうかが分かる。

 同じことが企業向け権利管理にも言える。優れたデータ利用ポリシーがあれば、不適切な文書の共有をかなり防止できる。社員を信用できない小さな子どものように扱わなければ、彼らを信用できることが分かるかもしれない。

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