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(3)「貧しい漫画」が向き合ってきた自由と責任と同人誌と表現を考えるシンポジウム(3/4 ページ)

» 2007年05月28日 09時35分 公開
[小林伸也,ITmedia]

藤本 先ほどから何回か出てますが、やはり同人誌や漫画に対して非常にネガティブなイメージを持っている方がいるわけですね。それに対してわたしたちが何をやっていけるかというと、やはり責任感を見せるということだと思うんです。つまり「同人誌なんだから何をやってもいいんだ」と思っているわけではなくて、表現者として責任を取る姿勢があるということを見せることができれば、それは、規制に対して戻していける力になるのではないかと思います。

 コミケットの基準が商業誌よりちょっと厳しいという話題が出ていますが、それはそういう目で見られているからこそ責任感を示していくことで、長期的に考えた場合に大きな意味での表現の自由を守ることができるという判断に基づいているのだと思います。

 わたしも二重三重のチェックがあることを今回初めて知りました。業界の自助努力を広く知ってもらうことは力になると思います。同時にわたしたち自身が、表現に対する責任を感じていくということも大事なのではないかと思います。

望月 補足させていただきます。刑法175条ですが、「チャタレイ事件」判決では「徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう」*8というのが基準になっていて、これは今でも生きている。性交場面の量や度合いが判断のファクターの1つにはなってます。

 ここで性交というのは男女が想定されているとは思いますが、性器そのものの表現とか「性戯」、そういったものもファクターとして挙がっていますので、BLに限らず女性同士なども、理屈としては当たる可能性がある。性交場面がないので若干低く見られるかもしれないですが、可能性はあるという風に認識いただければと思います。

坂田 ここまでの話を受けて三崎さんのほうから話をいただけますか。

photo 三崎さん

三崎尚人さん同人誌生活文化総合研究所) 91年の話ですが、今となっては知らない人がかなり多いので、藤本さんの話を補足して当時の話をさせていただきます。

 「有害コミック」追放運動みたいな全国的な流れの中で、雑誌の休刊などの自主規制があった一方で起きた事件ですが、当時の同人誌の世界は今よりずっと小さい世界で無頓着にやってた部分もありますので、無修正なものがあったわけです。それに対して92年2月、同人誌即売会ではなく、書店に委託されていたということで、複数の有名な書店やマンガ専門店が、わいせつ図画販売目的所持で逮捕摘発され、5人が逮捕されて、その後70人くらい、同人誌作家やサークル関係者、印刷業者書類送検されました。

 当時コミックマーケットは幕張メッセ(千葉県)でやっていましたが、時をほぼ同じくして「善意の一市民」、まあ誰だかよく分かりませんけども、その方から千葉県警に無修正の同人誌が送りつけられ、それに基づいて幕張メッセはどうなってるんだと県警が事情聴取し、その絡みでコミックマーケットは幕張メッセを借りることができなくなり、東京・晴海の国際見本市会場に戻ったということがありました。

 第1部でコミックマーケットの市川さんが話していましたが、コミックマーケットの「アピール」という文章がの原型はこの当時できたものです。それまでもコミックマーケットはサークルから見本誌を集めていましたが、その見本誌の内容を確認して、問題ある同人誌があった場合は販売を止めると、そうしないと会場を貸せないという話があり、それを受けて見本誌チェックというものが始まり、現在まで来ています。特にわいせつに関するチェックと、聞くところによると著作権ですね、デッドコピーとか、そういったものへの対応もしているみたいですけれども。

 コミケットアピールの中にかかれている基準というのは、サークルのみなさんに、最大限、なるべく可能な限り自由な形で同人誌を作っていただきたいと、そのベースになるものです。決して即売会の主催者が規制をしたいからといって設けているわけではないということですね。釈迦に説法みたいな話ですが、そこはもう一度確認したいところだと思って述べさせていただきました。


*8 1957年の最高裁判決が示した「1.徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、2.且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、3.善良な性的道義観念に反するものをいう」──は「わいせつの3要素」として知られる。

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