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(4)言うべきは言い、守るべきを守る同人誌と表現を考えるシンポジウム(3/3 ページ)

» 2007年06月01日 06時07分 公開
[小林伸也,ITmedia]
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坂田 第1部でも述べたように、同人誌即売会、印刷関係者、販売店などが自主的な努力を続けてきました。もちろん18禁も含めたゾーニングもやっている。ただ一方で、大人と子どもとはどこに境界線があるんだということは考えてみる必要があるのではないか。時代によっても国によっても成人の定義は違います。日本の成人は20歳ですが、青少年健全育成条例で定められているのは18歳未満なんです。そもそもその根拠はなんなんだということを考えていくことも大切だと思います。これは反対や批判ではなく、冷静に、いまわたしたちに与えられているものをどう考えるべきるか、咀嚼(そしゃく)する力というのを個別に持つことはとても大切ではないかという気がします。

 時代地域によってわいせつの定義も違ってくる。江戸時代の春画に書かれている描写は非常に直接的なもので、性器を露骨に描写していますが、これは現在芸術ということで、規制の対象にはなっていません。なぜ明治時代以降、春画がなくなったかというと、欧米に対して日本が野蛮な国であると思われたくないという一心で厳しくなったという経緯があります。性器描写ひとつとっても、時代によってこれだけ大きな差異があるということも理解していただきたい。

 児童ポルノ法の対象は18歳未満です。これはすごく大切なキーワードになっています。考えようによっては、漫画やアニメのキャラクターはほとんど18歳に見える。萌え系の漫画で「わたし20歳です」と言っていても通用しないのかもしれない。それは大問題なわけで、これが規制の対象になると漫画・アニメ文化の死滅につながりかねない。先ほど藤本さんがおっしゃったように、「舞姫(テレプシコーラ)」という非常に優れた作品の中に、明確な児童虐待のシーンがあるんですね。いわゆるヤクザものたちが、登場人物の小学生の女の子に性的虐待をして映像に撮るというシーンが出てきます。でも、これはストーリー上必要で、彼女の置かれた不遇な境遇を明確にするために必要な描写なんですね、それすらも取り締まられたら、これは表現の自由に対する著しい侵害ではないかなという気がしないでもありません。

 われわれは今後どうやっていくのかということを考えて深めていく、きょうの場がみなさんにとってそういう場であってほしいなと思っています。

「イベントは一発勝負」──出席者全員と会場との質疑応答

──現在の修正がこのままでよいのか、状況によって変わってくるのか、地域によっての反応の違い?があるのでは。

市川孝一さんコミケット準備会COMIC1準備会) 僕は修正を1991年から見てるんですが、そのころから修正がだんだん薄くなってきているのは確かにそうなんですが、これは流れがあるんですよ。社会の流れがあれば、われわれの文化であったり、という流れがあって今の形ができあがってきた。

 確かにいろんな修正の仕方がある。黒塗り、白塗り、それからモザイク、または昔からあるようにオットセイとか、形を変えたものとか、いろんな仕方がありまして、それが社会に通用するかどうか、商業誌と照らし合わせたりとか、いろいろなものを見て判断しています。

 それが正しいかどうかという基準はないんですよね。確かに刑法175条を読んでもわかるように、明確には書いていない。という以上はやはり、われわれが今までやってきた流れの中で考えてきたもの、が基準になっていく。それが世間に通るか通らないかは話は別なんですけれど、それはやはりみんなで戦っていくべきところでもあるし、考えていくべきでもある。望月先生、松文館事件の時に、リアルな絵はどうという話があったと思うんですけど、実際どうなんですかね。

望月 松文館の時にはカラーページは白抜き、白黒の部分は40%の網掛けという状況だったんですけれども、性器の形がなんだかんだいってよくわかると、範囲が狭い、といったような判断をされて、結局は網掛けとかをしていてもわいせつであることに変わりはないという判断をされてしまった。職業上、安全策に流れがちなんですけれど、その辺は慎重になったほうがいいのかなっというのが正直なところです。

市川 今の普通の商業誌でもそうなんですけど、同人誌見て、そう考えると全部アウトですよね。今その辺の書店、虎の穴さんとかメロンブックスさんとかで売ってるものすべてやばいですよね(会場笑い)。

三崎 言いにくいんちゃうかそれ(笑い)。

市川 ちょっとマズイですけども、そこをやっぱりどう考えていくかという。

川島国喜さんメロンブックス) 同人誌のほうがよっぽど基準は厳しいです。

市川 やっぱりイベントは一発勝負なんですよ。だから商業誌よりも厳しくなってしまう。僕と米澤が2人で前にやってたときは、僕より米澤のほうが厳しかったんですよやっぱり。「米澤さんどうして?」って言ったら、やっぱりイベントは一発勝負だから、ここでこのくらいじゃないとやばいって話になるんですよね。

三崎 「一発勝負」っていうのは、要するに雑誌はつぶしちゃえばなんとかなると。あんまりつぶしてると取り次ぎから怒られちゃうんだけれども。即売会で一発勝負というのは、ほんとに後がない。というのは商業誌とはだいぶ状況が違う。

市川 イベントはその日その日で消化していくものなんですね。イベントは何かあると次は開けないんですよ。これほんとでして、もしなんかあったら会場を貸してくれないだろうし、金銭的にも1回そんなことをやってしまうと厳しいというのはあるんですよ。そんな中で考えていくと、修正は厳しめになってしまう。だから、商業誌はコンビニ向けと一般書店向けとがありますが、その中間くらいをどうしても狙わざるをえないし、それを考えていくのが、われわれの基準と考えています。

 社会の流れというものを非常にみて行きますので、事件が起きれば厳しくなります。だから8月の前半に何かあれば、かなり厳しくなる(会場笑い)。具体的に言えばそういうことになりかねないというのはありますので、よく見てほしい。

──ゾーニングに関して、もっと厳しくしないとまずいのでは。即売会におけるゾーニングをもっと考えるべきではないか。

鮎澤慎二郎さん虎の穴) 書店は同人誌も商業誌も特に区別はありませんので、当社で取り扱いさせていただいてて、成年向けである場合には、各都道府県の条例がありますので、それにのっとって表示をすると、必要があれば身分証明書の提示を求めていくという対応をさせていただいています。出版社が発行したものであれば発行責任者が明記されていますので、そういったものも含めて告知をしていくと。同人誌に関しては、専用のPOPなどで発行責任と、18禁・一般を明記しています。

川島 虎の穴さんと一緒ですが、18禁に限らず、商業誌も同人誌もパッケージングしてるわけですね。同人誌はポリ袋に入ってるのを見たことがあると思うんですが、一般には立ち読みができない。それにプラスして、18禁・一般をPOPなどでわかるように案内をしています。専門書店ということで、普通の書店よりは厳しめの対応をしているつもりです。

中村 即売会はコミティアの例で言いますと、アダルトサークルさんに関しては、普通の即売会は島で分けることが多いんですけれども、うちの場合は島の中の通りになります。つまりアダルトサークルさん同士で向かい合うという形になるので、例えばちょっとエッチなPOPが気になるところも多いんですけれど、そういうサークルさん同士は向かい合うので、そこに入り込まなければ目に触れることはないというような工夫をしていたりします。

「あいまい」の良さ──まとめ

坂田 第1部から再三申してきましたように、われわれは常に自主的な努力をしてきております。だから今回の件については、危機感というよりは、こういうことが起こったんだなあと、われわれが取り組んできたことをもう少し公にしていかなければならないなという意識のほうが大きかったと言ったほうが適切かもしれません。

 この機会にいっそうこの問題と、表現の自由の大切さを考えていきたい。「わいせつ」という問題も、チャタレイ事件のころは「女性自身」という言葉が裁判の争点になった経緯もあるように、わいせつという概念は常に変化しているわけです。この先どんどん緩やかなものになっていくのか、逆に厳しくなっていくのか、それはわかりません。それは刑法175条に明記されていないからですね。だからといってわれわれは何もしなくていいわけではない。表現者としてどうやっていくのか、何をしていくのか考えていかなければならないのではないかと思います。

 よく米澤さんが「あいまい」であることの良さを話していました。日本の文化は基本的にあいまいな文化だったんですよね。そこが欧米とのはっきりした違いだと思うんですが、そのあいまいの良さが徐々に失われてきているんじゃないかという危機感を、僕もなんとなく抱いています。刑法175条に、だんだん輪郭が出てきてるのではないか。せっかくあいまいであるはずの175条に、どんどん細かく輪郭がついているのではないか。それで果たしていいんだろうかという個人的な疑問もあります。

 米澤さんがこの場にいないことが残念ですが、米澤さんが言う「あいまい」であることの良さということをいま一度考えていきたいと思いますし、もう1つ彼が言い続けてきた「可能な限り自由な表現の場としてのコミケットでありたい」という思いを、われわれも継承していきたいと思います。

(おわり)

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