「ニフティはいったい、どうしてしまったんだ」――6月11日に公開された「ニフニフ動画」を見て、そんな感想を持ったネットユーザーは少なくないだろう。「ニコニコ動画」とそっくりな機能と名称は、老舗ISP・ニフティのまじめで手堅いイメージとはかけ離れており、大きな反響を呼んだ。
「このままでいいのだろうか。変わらなくてはならない」――「ニフニフ動画」は、同社のそんな危機感の現れだ。「気が付くと、20年前とは状況ががらりと変わっていた。当たり前のことなのだが……」
ニフティは、ネット業界で最も古い伝統を持つ企業の1つだ。1986年に創業。パソコン通信「NIFTY-Serve」の運営者として大きな存在感を示し、インターネット時代到来後は大手ISPとしてシェアを獲得してきた。
ブロードバンド普及につれ、ISPの存在感は徐々に薄れてきている。ダイアルアップのナローバンド時は、回線をつなぐたびにアクセスポイントが画面に表示されるなど、ISPを意識する機会は多かったが、ブロードバンドは1度つなげば、ISPを意識することはほとんどない。
「誰かに聞かれれば『ニフティだったかな?』と思うぐらいでは」――同社コーポレートコミュニケーション室長の津田正利氏は、ブロードバンドサービスプロバイダーとしてのニフティの存在感をこう表現する。
ISPの“姿”が見えなくなったのは、インフラとして十分に進化したということでもあり、収益さえ上がっていればそれでいい、という考え方もある。同社の07年3月期の連結決算を見ると、売り上げの9割近くをISP事業で稼ぎ出しており、安定した収益源になっている。
「当社はISPをベースに事業を広げており、FTTH拡販にも力を入れてきた。それは間違っていなかったと思うが、FTTHが普及してしまえば後はシェアの取り合い。今後はそれほど大きな拡大が見込めない」。昨年末に東証二部に上場し、いっそうの収益拡大を求められる同社としては、次の収益の柱を早急に育てる必要がある。
2003年に大手ISPとして始めてブログサービスに参入して「ココログ」を始めるなど、同社はISP会員向けを中心に、ネットサービスにも力を入れてきていた。ココログは、2005年末にISP会員以外でも無料で利用できるようにしたほか(関連記事参照)、ISP会員限定だったメールサービスも、この6月に一般開放するなど(関連記事参照)、徐々にサービスをオープン化している。
「当初は、当社の線をつないでくださっている方に付加価値サービスとして楽しんでいただければ、と考えてきた。だが気が付くと、『誰でも使っていただけます』というサービスが世の中を席巻し、ISPよりもポータルやネットサービス運営企業――Yahoo!JAPANやGoogle、はてなのような――がネットの中心のような状況になってきて、われわれはこれでいいのだろうか、と考え始めた」
「ニフティでもBIGLOBEでもYahoo!BBでも、どんなISPを利用している方にも、ポータル『@nifty』を見に来てほしい」――「ニフニフ動画」を始めとした「はみだし@nifty」の企画は、“変わりつつあるニフティ”を端的に示したサービスだ。
「NIFTY-Serve時代、当社はフォーラムに集まったユーザーの声を集め、発信してきた。いまで言うCGM(Consumer Generated Media:ユーザー生成したメディア)と同じ。そういった“本当のニフティらしさ”に回帰するためにも、これまでのニフティの“規格”ではできなかったことをやりたい」
新サービス開発は従来から力を入れていたが「社内で開発するとどうしても“ニフティらしさ”にひきずられてしまう」ため、元・ライブドア幹部が設立した企業・ゼロスタートコミュニケーションズに開発を依頼し、自由な発想でサービス構築してもらった(関連記事参照)。第1弾として発表したのが、ニワンゴの人気サービス「ニコニコ動画」に名前もサービス内容もそっくりな「ニフニフ動画」だ。
ニコニコ動画は、動画に重ねてユーザーがコメントを入れ、同期して表示するサービス。これに対しニフニフ動画は、動画の直下のスペースに配置したティッカーにコメントを表示する。仕組みは若干異なるが、動画にコメントを重ねられるというコンセプトは同じ。「やっぱり元祖は、ニコニコ動画ですよね」と津田さんは素直に認める。
「本当にそんなサービスをやるのか」――経営陣も含め、迷いはあったという。動画にコメントをつけるというだけの単純なサービスで、内容からネーミングまで他社サービスにそっくり。「いままでのニフティならもっとサイトを作りこみ、機能を盛り込んでから発表しただろう。『人のまねをするのか』というプライドもある」
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