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あの「ブレイク工業」がパチスロに ブームとその後、ITと(2/2 ページ)

» 2007年07月13日 17時21分 公開
[岡田有花,ITmedia]
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 自分のPCも手に入れた。九十九電機ブランドのDOS/V機。ネット接続が難しく、説明書と首っ引きで1カ月ぐらいかかった。それでも頑張れたのは、エロコンテンツを見たいという一心。「ぼくは声を大にして言いたい。男はエロを見たいという情熱でネットにつないだんだと(笑)」

 やっとつないだネットで、見知らぬ外国人とチャットで話したりもした。「アリゾナ州のおばさんとしゃべったり」

 やがてMacに乗り換えた。2001年ごろにPower Mac G3を、2003年ごろG4を手に入れた――が、「冬の時代」だった。2002年、母親が入院し、自分もバイクで事故に遭ってけがをした。楽曲が採用されず、採用されても売れず、金に困り、音楽仲間が勤めていた「日本ブレイク工業」という名の解体事業者に契約社員として雇ってもらった。「何度か廃材運びをしたくらいで、まともに働いていたわけではないですが」

画像 Flashアニメ「蛙男商会」の音楽も担当した。もともとファンで「音楽を作らせてほしい」と自ら申し出た。「同い年なんですが、こうもセンスが違うものかと……。蛙男さんは戦友です」。ネット関連ではほかにも、生協の白石さん作詞作曲の「木洩れ日」で編曲を担当している

 親しかった課長と話していて、社歌を作ることになった。解体作業のイメージアップを狙った楽しい歌。アニメソング風のメロディーに「ブレイク ブレイク あなたの街の 解体 解体 一役買いたい」と、解体作業の現場感あふれる、キャッチーな詞を載せた。「シャレですよ。ちょっと作ってみようか、という」

 会社は曲を気に入り、見積もりデータを入れるCDにさりげなく収録したり、Webサイトで公開したりした。「大手ゼネコンにも渡ってますよ、社歌入りの見積もりCD」。取引先からの評判も上々。ネタとしては十分な結果を得た。それ以上は望んでいなかった。

 「社歌を紹介したい」――「タモリ倶楽部」(テレビ朝日系)から出演依頼を受けたのは作ってから2年後。「寝耳に水でした。でもありがたかった」。解体作業員の格好で番組に出て歌ったところ、「日本マイナーキャンペーンソング大賞」を受賞。お祭り騒ぎが始まった。

 キャッチーな詞と曲が「2ちゃんねる」で話題になり、リミックスした楽曲やFlashが作られた。急きょ作ったCDが、オリコンチャートを駆け上り、デイリーチャート初登場7位に。ネットユーザが作ってくれたアレンジ盤を集めCD「ブレイク祭り」も発売した。

 「ネット上のファンが盛り上げてくれました。ぼくの曲に絵が付いていたり、アレンジされていたり、Flash動画になっていたり……注目してもらえるのがうれしかった」

 2ちゃんねるには忌憚のない意見も並ぶ。批判もあったし、「デブ」「キモヲタ」などと中傷されることもある。それでもありがたいと思った。「注目されないと中傷もされないから。面と向かって言えないような批判をもらえるのは、反省材料にもなるし」

いずれ冷めるから

画像 パチスロ台「日本ブレイク工業」は、社歌をはじめとした萬Zの曲が流れ、キャラクター「萬Zくん」登場する

 ブームのど真ん中にいながらも冷静だった。「いずれ冷めるから」と。実際、徐々に落ち着いてきた。また元の作曲生活に戻れる。そう思っていた。

 パチンコ台メーカーの平和から「ブレイク工業を台にしたい」という話が持ちかけられたのはそのころ。「当時の社長さんが気に入ってくださったようで」。平和に呼ばれてミニライブをした。「久しぶりにアツい曲を聴いたと言ってくださって……」

画像 萬Zの集大成「萬Z。Best」(7月25日発売)。「ブレイク工業」のほか、「げんしけん」主題歌などを収録する

 今年7月、パチスロ台が店頭に並んだ。「萬Zくんというキャラクターが出てくるんですが、格好よくてびっくりしました。パチスロ好きなので、やってみたいですね。勝ったらどんな気分だろう」

 祭りは今度こそ、終わりに近づいているのかもしれない。「そろそろ元のmanzoに戻ろう」。萬Zとしての活動をまとめたCD「萬Z。 Best」を7月25日に発売し、しばらく萬Zの活動は控えめにする。“商品をPRするためのブランド”萬Zではなく、ミュージシャンmanzoとして、質にこだわった曲を作っていきたい。

「体温がない」ネットは不安

画像 玄関そばの廊下に作った歌入れブース。これがあるから、廊下がちょっと狭い

 最近は、家から外に出る必要がない。曲を作り、PCで打ち込み、1人で楽器を演奏し、自宅の防音ブースで歌を入れる。データはSkypeで転送。打ち合わせは携帯電話でOKだ。「ネットがあまりに便利で外に出なくて済むから、太ってしまいます」

 ただ曲作りの時は必ず、発注した人に会うようにしている。「『寒い感じの曲を』と言われても、その人がグリーンランド出身なのかパプアニューギニア出身なのかによってイメージが変わる。『悲しい感じ』でも『赤い感じ』でもそう」

 初めての人には、出身地や兄弟構成、趣味などを根掘り葉掘り聞く。「ずっと野球をやってきた人なら『曲がったことが許せないタイプですか?』と聞いたり。そういう人が言う“熱いもの”は何か考えて、曲に込める。お互いのプロフィールを分かり、『○○な感じ』をお互いに理解できれば安心できる」。

 ブログも開設したが、エントリー1つ更新するのに2時間もかかる。「会ったことがない方に対して文章だけで発信すると、どうしても誤解されやすくなってしまう」。体温がないテキストだけでは、不安だ。

 「ネットは手段だから。そういうところを取り違えると、危険だと思う」

――あなたにとって、ITとは

画像 いまのメインマシンはヨドバシカメラショップブランドのAthlon 64機だ

 「一般論で言えば、バイオハザードの『タイラント』みたいな……。『アンブレラ社』が開発した化学兵器なんだけど、事故で巨大化して怪獣になってしまい、人間の手に負えなくなる。コンピュータウイルスを作る人が出てくるように、悪用する人も現れる」

 「でも『ガスター10』のCMみたいに、用法と容量を守れば体にいい。自分には薬用として処方しているから、ぼくにとってはすごくいいもの。楽しいし、感謝してる」

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