まず、お茶。「茶道はもともとはお茶をおいしく、行儀良く飲むためのものだったはずなのに、発展していくうちに、お茶がおいしいかおいしくないかは関係なくなってしまった。茶器をぐるぐる回してるうちに冷めておいしくなくなってるだろうし、茶会から帰ってお茶の味を覚えてる人なんかいないのでは。本来の目的を忘れた行為に、価値が与えられている」
「英国人が書いたお茶に関する本に、英国、中国、日本のお茶についての記述があり、日本だけおかしかった。英国はお茶を入れる温度や一緒に食べるケーキ、中国もおいしい淹れ方にこだわる。だが日本人は、お茶にいきなり宇宙を見いだしたり哲学を見いだす。その本にも『この国はおかしい』と書いてあった」
「スーパーマリオ」も「目的を忘れて行為を楽しむ」伝統が生んだ1つの例だという。
「どんなゲームにもそれなりに目的があるものだが、マリオの場合は毎回、ピーチ姫がさらわれてそれを助けにいくだけ。これはまた聞きなので正しいかどうか分からないが、マリオの開発者は『触っているだけで楽しいゲームを作りたいと思った』と聞いたことがある。作った人は多分、目的はどうでもよくて、行為を楽しんでほしいと思っていたのでは」
「目的のための行為に意味を与える」という考え方の応用例が、同社がau design projectのコンセプトモデルとして提案した「actface」だ。「Rhythm」「PLAY」の2種類あり、それぞれ、電話のボタンを押すという動作そのものに意味を持たせようとしている。
Rhythmは、ボタンを押すリズムに合わせて画面上に水墨画が描かれていったり、押したキーの数字が次々に飛び出す。「なんちゃってVJになれる」というUIだ。
PLAYは、携帯を操作するたびに、画面上の表示された「街が」変化していくUIだ。待ち受け画面にファミコン用RPGの2Dマップのような街を表示。電話帳に記録している仲間がその街に住んでいるという設定で、仕事関連の仲間が多ければオフィス街になるし、趣味の友人が多ければリゾート地に。バッテリーがフルだとみんな元気に、少なくなると元気がなくなる。
恋人からメールがあると、ハートが大量発生して建物がかわいらしいお城のように変わり、ラブリーな街に変化。何度もかかってくる電話に出ないと、かけてきた相手が怪獣になって火を噴きながら街を荒らし、それをヒーロー「デナインジャー」が退治する。
それぞれ、携帯電話の機能や使い勝手は全く変えず、UIに新しい意味と楽しさを持たせようとした試みだ。「目的そのものすら忘れられるような価値を与えることができたら。『日本的な革新』のあるUIができればいいな、と」
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