iPadの米国発売と同時にリリースされ、満点に近い評価と絶賛を浴びているKORG iELECTRIBE。大ベストセラーとなったビートシーケンサー「ELECTRIBE・R」をiPadアプリとしてリメイクしたものだ(ELECTRIBEもハモンドもiPadアプリに 「楽器としてのiPad」は一気に開花するか)。コルグは大手楽器メーカーとして初めて「楽器プラットフォームとしての iPad」に参入するという大英断も果たした。その意図と製品そのものについて、商品企画および開発担当者から話を聞くことができた。
iPadが発表されたのは1月末。iELECTRIBEのリリースは4月2日。その間3カ月もない。普通に考えるとこの期間での開発・発売というのは不可能と思えるのだが……。どうやったらできたのか?
コルグでiELECTRIBEの商品企画を担当した佐藤隆弘氏は「不眠不休で」と笑う。開発チームリーダーの福田大徳氏は「実際、土日も昼も夜もなかった」と同意。「ほかのメーカーもたくさんやってくると思ってた」からiPadのローンチに間にあわせたかったというのもある。
開発に取りかかったのはiPadの正式発表後だが、「もともとiSlateとか話題がでていた頃からアンテナを張って注目はしていた」。「やりたいね」「やろうね」という話はそのときからしていた。
しかし、SDKがすぐ公開されたとはいえ、製品が発売されるまでのタイムリミットはすぐそこ。即決で動かなければならなかった。
開発チームにはハードシンセのソフトウェア化に長けたメンバーがいたことも早くリリースできた要素としては大きい。
次の疑問は、なぜ最初にiPadなのか。iPhoneでもよかったんじゃないのか、ということ。佐藤氏はiPadを選択した理由として「大きさ」を挙げる。「KORG DS-10のときもそうだったんですが、楽器として使えるデバイスというのをぼくらはずっと探していた。そこにiPadが出たということです。iPhoneも魅力的だけど、今回はiPadとELECTRIBEがはまった」
また、同じコルグのアナログシンセであるMS-10をニンテンドーDS用にリメイクしたKORG DS-10については、「あのペン入力は、自分がやってる感じってのがすごくでますよね。小さい画面ながら、スタイラスペンとの組み合わせで細かい調整ができる。そういうデバイス毎の特徴がある」と佐藤氏は説明する。
ではiPadで何をやろうか、という話になるのだが、「ELECTRIBEのソフトをやりたいという話だけは昔からしていた」(福田氏)という。佐藤氏によれば、具体的には「一番初めのKORG Legacy Collectionを出したときから」
KORG Legacy Collectionは、MS-20、Polysix、Mono/Poly、M1、WAVESTATIONなど、コルグの名機をソフトウェアで再現したシリーズで、このアナログシンセサイザーのソフトシンセ化が後のKORG DS-10につながったという経緯がある。シリーズ第1弾は2004年発売(ソフトウェアシンセサイザーのスペシャルパック「KORG Legacy Collection」)。
ELECTRIBEが最初に出たのは1999年。KORG Legacy Collectionの時点で5年を経過している。ここでVSTi化、スタンドアロン化する手もあった。
だが、「画面にいれてしまうと、複数の操作子を直感的に操作できるELECTRIBEのよさがまったくなくなってしまう」という理由であきらめたという。
「マルチタッチがやりたかった」──複数パートの同時ミュートなど、ELECTRIBEの機能を使うには、マルチタッチの機能が不可欠。これまでのPC上のソフトシンセでは不可能なことだった。
iPad版としてリリースすることのメリットとして、App Storeの存在は大きいのではないか、そんな問いかけをしたところ、「AppleのiTunes App Storeでの販売は作り手も買い手も便利ですよね」と佐藤氏。
iELECTRIBEは楽器としては考えられない低価格。2010年6月30日までの期間限定ではあるが、1200円で提供している(通常価格は2300円)。安すぎるという声も多いが、「この新しい感覚をできるだけ多くの人に体験してもらいたい」という意欲の現れだという。
これで十分にやっていけるかと聞くと、「それはわからないです」と笑うが、少なくとも初速に関しては実績が上がっている。米国チャート(総合)の金額ベースで14位(2010年04月22日時点)。音楽アプリでは1位。評価もほとんどが満点の★★★★★。楽器アプリでこれほどの高い評価を得ているものはない。
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