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観測するまでは不定である難波弘之 対 野尻抱介(4/5 ページ)

» 2010年11月03日 15時44分 公開
[杜松百舌,ITmedia]

杜松 まさにVOCALOIDはそういうところが利点ですからねえ。文句も言わない、音程もほぼ無限に出るようなボーカリストがいたら。

難波 文句言わないのが一番いいなあ。やっぱりさっき言った「業(ごう)がない」というところが。

杜松 そう、透明なんですよね。

難波 じゃあ業を発生させるようにする。

杜松 なきゃないで、業がないと物足りない部分あるんですよ、それが作り手それぞれがミクに乗せる物語であったり業であったり。

難波 じゃあ他の歌手の悪口言わせてみたりとか性格悪くしてみたりとか。

杜松 ああもう、性格悪いミクっていうのは結構むしろ定番ですね。

難波 あるんだ。

松尾 新しいVOCALOIDが出るたびにそれを邪魔する。

杜松 新人つぶしに定評のあるミクさん。みんなのミクだよーって感じでありながら、VOCALOIDの頂点から降りようとしない、っていう。そういう感じ定番です。

難波 じゃあすでに業は付与されているわけですね。

杜松 ただその業もユーザーによって付与されたものであって。ミクから自然発生したものなんですよね。

野尻 曲にも、人にあらざるものの悲哀みたいなものですね、それが反映してたりするものがあるし。

難波 そうするとあれですね、平井和正の初期の作品世界ですねえ、「アンドロイドお雪」とかああいうかんじ。

野尻 要は売れないDTMをやってるお兄ちゃんがミクさんが来てくれたおかげで、みんなに聴いてもらえるようになりました、みたいな。だからお友達というか大事な助っ人なんですよね。

杜松 ボカロ関連のものとか見てるとそれこそずーと慣れ親しんできたフィクションがどんどん現実になっていく、っていうのを実感しますね。そういう、才能を秘めているのに無名の若者が、ミューズのような人工生命のようなものに出会って、自分の才能を開花させていくであるとか。誰の心のなかにもいるけれど、どこにもいない集合体的な存在であるとか。それから人のようで人の言葉で歌うけれども自分には意志はなくて、でも言葉を発する。どれも、どこかで見たことがあるじゃないですか。そんなものにワクワクしてきたじゃないですか。それが今ちょっとずつ現実になってる感じがすごいなって思うんですよね。

松尾 大体、これ1人のシンガーの声で、2万曲以上出てきてるんですよね。これがもうむちゃくちゃすごいことで。で、その曲自体に意志みたいなものがあるんだったら、それこそ小説のネタにも成り得る。

難波 そうですよねえ。

杜松 だからもう野尻さんに書いてくださいよって私ずっと思ってるんですけど。

野尻 いやーぼくは難波さんに是非それを。

難波 いやいやいやいや。

野尻 いわゆる鉄腕アトムみたいなヒーロー、単体のヒーローじゃなくて、みんなが買える。みんなが1万5千円出せば共有できる、買えるという。無限に複製できちゃうところがすごいですよね。

杜松 それはフィクションを超えてるところですよね。シャロン・アップルも鉄腕アトムも、たった1体しかなかったけれど、初音ミクはセールス分いる。それどころか聞いた人分いる。そう解釈もできる。だからそういうのを書いてくださいって私はずっと思ってるんですよ。初音ミクのキャラクターではなく。

野尻 そうね、ミクで変わった環境とか。ミクを伴う何か。

杜松 この、この、この状況を書いてくださいっていろんな人に言ってるんですけどなかなか書いてくれない……。

難波 集団理性に近いものかもしれないですね。

野尻 うん、でもあの集団理性というのは、でも結局は全体が統合されてひとつの意識になりますよね。これはまあバラバラのままで現象、ミク現象がおきている。

難波 そうですよね、いやだから、集団、あーでも、集団理性の産物とは言えないのか……集団理性を離れて自走する、いやもとから自走してるもんな……。

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