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mixi、NHN、Grouponのトップが語る「プラットフォーム進化論」IVS 2010 Fall

» 2010年12月21日 16時49分 公開
[高杉貴,ITmedia]

 ディー・エヌ・エーに公取委立ち入り検査――。12月8日朝突如流れたニュースに、2日目を迎えたIVSも無縁ではなかった。午後1時半から始まったセッション7「プラットフォーム進化論」は予定されていたスピーカーが突如変更。DeNA取締役COOの守安功氏が外れ、ピンチヒッターとして急きょグルーポン・ジャパン執行役員COOの野田臣吾氏が登場した。本来ならトップバッターだった守安氏の代わりを、ミクシィ社長の笠原健治氏が務め、野田氏は壇上に登ってからも、慌ただしくレジュメ作りに励んでいた。

photo パネリストのミクシィ笠原氏(左)とNHNジャパン森川氏。DeNA守安氏が帰京したため、森川氏の右側は空席に

 守安氏に代わり、“先発”を務めた笠原氏はソフトバンクと始めた「ソーシャルフォン」の取り組みから話し始めた。電話帳を連携し連絡先を常に最新にするほか、カメラで撮った写真も友人知人とプラグインとチェックという機能を通じて簡単にシェアできるようになったという。相手の写真のアドレスを知らなくてもmixi上からアクセスできる。さまざまなAPIを出しているが、「リクエストAPIやデジタルギフトも有効に活用されている」(笠原氏)という。そのような効果もあり、ユーザー総数も再び上昇トレンドを描き、直近では2200万人を数えるにいたった。また、月間ログインユーザーも100万人を超えた。

 今後の展開としては、mixi内で他の人のブログコメントに賛同の意を示す「イイネ」ボタンを外部に開放する。さまざまなサイトに「イイネ」ボタンを提供、「リビングにいるような感覚をネットで味わうことができる」(笠原氏)という。公開しているAPIだけを使って公式アプリを作っていくことを考えている。「誰でもアプリを作ることができるようにする」(笠原氏)という。

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 笠原氏はさらに「コミュニティプラットフォーム(仮称)を構想中であり、多様な企業やブランドなどが情報発信できる場を設ける。『ミクシィ年賀状』の仕組みを含め、誰もが使えるプラットフォーム化を進めていく。より多くのWebサービス提供者にmixiのソーシャルグラフの仕組みを取り入れやすい環境を作っていく。来年春以降に順次出していくことを考えている。海外のSNSと連携していき、アプリのプラットフォーム化で協力していく。準備中段階で、順次発表していきたい。中国・韓国以外の地域のSNSにも提供していきたい」などと述べた。

 笠原氏は最後に「ソーシャルネットという空間が近年成長している。友人知人とのつながりが豊かになっていくように努力していきたい。みなさんと一緒にやっていきたい。一番最短で最大限引き出すことができるような、ソーシャルネットワーク、ソーシャルグラフとしてやっていきたい」と締めくくった。

photo 司会役として、ときおり鋭い質問を浴びせたヤフーの松本氏(左)と急きょ登壇したグルーポンジャパンの野田氏

 笠原氏のスピーチの合間も一心不乱に作業をしていたグルーポン・ジャパンの野田氏は冒頭「開始14分前ぐらいに出よと振られたので」と苦笑しながらスピーチを始めた。「あり合わせの資料」(野田氏)で話し始めたのは、グルーポンのローカルを巻き込んだプラットフォーム化について。現在のグルーポンは2008年のイノベーション、09年の事業モデルの検証を経て10年の海外展開、グローバル化の段階にあり、11年に1つのプラットフォームになると説明した。

 その中で肝になってくるのが、米国で展開しているGROUBLOGPON(グルーブログポン)の仕組み導入。現在、グルーポン・ジャパンでは基本的には一地域に1日1サービス。サービスは24時間経つと、過去に取引されたサービスのコーナーページに移動し、基本的には見るだけで触ることができない。米国のGROUBLOGPONではクーポン購入者同士が「お得だった?」「店の雰囲気は?」といった具合に情報交換でき、買った後使うまでのケアが可能になる。Grouponの仕組みでは、サービス提供するお店とクーポン購入者だけでなく、クーポン購入者同士の密な関係を構築することがプラットフォーム化の流れの中で不可欠との認識を示した。

 NHNジャパン社長の森川亮氏はオンラインゲームのハンゲームを中心にプラットフォーム化について話した。2000年から始めたハンゲームは累計会員数3700万人を数え、稼働会員数が250万人、常時20万人が遊ぶサイトになっている。女性ユーザーの多さが特徴だという。ライブドアも10年春に傘下に収めた。NHNジャパンとしては「人が欲しい情報をシステム化しよう」(森川氏)との考えから、ブログ・動画・画像を一緒に見せ、お互いにつながることによって、便利さ・楽しさを共有する仕組みを作っていくという。

 日本のゲーム業界については、「任天堂が確立したコンソールでスタート。PC時代になり、単にゲームを提供するだけでなく、ユーザー同士の情報交換などをSNSで促進するこの収益モデルをつくったのがハンゲーム。ガラケーに移行し、主役を張ったのがモバゲーやGREEだ」(森川氏)との見方を示した。

 ハンゲームあるいはNHNがガラケー時代をリードできなかったことについて「画面サイズが小さい中でアバターを買わないだろうと思いこんで、すぐに撤退してしまったのが誤算」(森川氏)という。その反省から、来年からいよいよ本格化すると思われるスマートフォン時代では、ガラケーよりスペック等で自由度が増すこともあり、ガラケー時代に多かった、他と似たようなゲームから脱却した「オリジナリティー勝負になる」(森川氏)と判断。7月から始めたスマートフォン向けゲームは現在は10本だが、「来年からは週1本のペースで新作を出していく」(森川氏)という。

 また、1人用だけでなく「スマートフォンでのオンラインゲームも準備している」(森川氏)ようだ。位置情報などと連携し、町中にミッションを設けてクリアするとクーポンがもらえたりするようなリアルゲームも導入していくという。

「むかつく企業やライバル企業」は?

 一通り説明が終わったところで、ヤフー本部長でモデレーターを務めた松本真尚氏から質問が始まった。1つ目の質問は「スマートフォンはモバイルかPCかそれとも別モノか」。笠原氏は「アプリの作り込みとしては、PCとスマートフォンは違う。ユーザーの可処分時間的には一緒」と答えた。また、野田氏は「Grouponはコンテンツがシンプル。コンテンツの見せ方は気にしなくていい」と語った。

 次に、プラットフォームの定義、価値について質問があった。、森川氏は「ビジネスになるのが大前提だが、エコシステムを作りたい。利用者が満足できる価値を作りたい」と切り出した。笠原氏は「ユーザーが使ったことのない経験をプラットフォームを使って体験できること」と続いた。野田氏は「リアルのアクティビティーにどう絡むか、どう価値を生み出すかが重要」と応じた。

 3問目はプラットフォームに最低限必要な要素というお題だった。笠原氏は「ソーシャルネットの空間は大きくなる。まだ拡大が始まったばかり、最短ルートを歩むためにノウハウを持っている会社さんと組んでいけばいい。なければ自分でやるが」と話した。

 森川氏は「プラットフォームは大変。いつまでも続くプラットフォームはない。最初に作るときはもうからないから。インターネットだって最初はそんな風に言われていた。進めるにはリーダーシップが必要。最初の立ち上げは誰かがリスクを取ってやり、そこから収益モデルを作るって言う意思とか責任が重要かなと思う」と過去の経験から語った。

 4つ目のお題は、なんと、むかつく企業やライバル企業について。野田氏は「立ち上げたばっかりだし、難しいですね」とうまくかわした。森川氏は個人的に、と前置きしたうえで「米国系ネット企業が垂直統合した後、傲慢になるのは問題。1社独占で押さえることが長期的にいいのかなと思う」と苦言を呈した。笠原氏は「FacebookやTwitterがライバルではと思われるかもしれないが、すみ分けている」と話し、強いて言えば「自分たち自身かな」(笠原氏)と大人の対応をみせ、会場を沸かせた。

 5つ目はプラットフォーム事業を推進する上での悩み。森川氏は「利用者の数だけで競うのはさみしい。プラットフォームの特徴が価値になる。ただ、(それぞれが違いすぎるとプラットフォームを)使う側からすると、それぞれにカスタマイズするのでコストになる。両者の葛藤がある。それが悩み」と打ち明けた。

 野田氏は「(この業界は)まだ確立したプラットフォームではない。きちんと成熟してほしい。クーポン販売後に提供している会社がつぶれた場合など、クーポン購入者の保証をしていく考えだが、きちんとそういうサポートをしていない業者が増えて、共同購入クーポンは危険だ、といったイメージを持たれないようにしないといけない」と話した。

 6つ目は、「携帯キャリアって敵? 味方?」というテーマだった。森川氏は「iモードの時はドコモが『ここから先はまかせたよ』と線引きをしてくれたのでよかった。ただ今はそれがない。不安なまま僕らは走っている」と語った。笠原氏は「ソフトバンクとも関係が築けている。今は協力していける相手」と述べた。野田氏は「今は独自できてしまっており、プラットフォームとの線引きを考えていない。今後は踏み込んでいかないと」とキャリアとの関係について踏み込んだ対応をする方針を示唆した。

 最後に、世界発信への決意を聞かれ、笠原氏は「モバイルでは先駆けて作ってきた自負がある。うちから中韓にも働きかけており、いい連合体・すそ野を作っていきたい」と抱負を語った。野田氏も「日本がリードしていきたい」と続いた。森川氏は「ゲームを簡単に作れるツールを準備している。また、作ったら韓国語に変換して向こうでもやれるようにする。参加しやすく課金しやすくする」と戦略を明かした。

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