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「コンピュータは星新一を超えられるか」 人工知能でショートショート自動生成、プロジェクトが始動

» 2012年09月06日 19時29分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 「コンピュータは星新一を超えられるか」――はこだて未来大学は9月6日、星新一さんのショートショートをコンピュータで解析し、新たなショートショートを生み出すプロジェクト「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」を開始すると発表した。人工知能研究の第一人者として知られる同大の松原仁教授など6人がプロジェクトチームを結成。5年以内に、星新一作品と同等かそれ以上のクオリティーのショートショートの自動生成を目指す。

 プロジェクトの進め方は検討中だが、1つの案として、(1)星さんのショートショート作品すべて(約1000作品)の特徴(使われている単語や文章の長さ、1文の単語の数、作品全体の長さ、プロットや物語の構造、各作品の共通する特徴など)をコンピュータで解析し、(2)さまざまなショートショート制作法をコンピュータで試して見込みがありそうな方法を探し、(3)その方法を洗練させ、アルゴリズムとしてまとめて創作法を完成せる――という手順を検討している。

画像 松原仁教授

 星さんの作品を選んだのは、ハイクオリティなショートショートを約1000点遺しており、分析するためのデータベースとして十分な量であること、各作品で起承転結や“オチ”があり、プロットが分かりやすいこと、本人が作品の作り方を語り残しており、プログラムに体系化できそうなこと、作品の個性が際立っていること、多くのファンに愛されているため、評価を求めやすいことなどが理由だ。

 松原教授は全体統括を担当。はこだて未来大学の中島秀之学長が作品評価を、同角薫教授がデジタルストーリーテリングを、迎山和司教准教授がコンピュータアートを、名古屋大学の佐藤理史教授が自然言語処理や文章生成を、法政大学の赤石美奈教授が物語生成を担当する。SF作家の瀬名秀明さんが、プロジェクトの顧問として参加し、新潮社が星新一作品のデータ提供で協力。研究資金ははこだて未来大学が拠出するが、外部予算も獲得していく。

人工知能で人間の感性は再現できるか

 人工知能の研究は20世紀半ばに始まり、その成果は、ワープロソフトの変換機能や情報検索、音声認識などさまざまなアプリケーションに応用されているほか、チェスでは1997年にコンピュータが世界チャンピオンを破り、将棋もプロ棋士レベルに達している。「情報検索や理性的な判断はコンピュータが得意だが、感性をコンピュータが扱える時代がそろそろ来ているのでは」(松原教授)。

 人工知能で感性を再現したり、クリエイティブな表現をしようという取り組みは以前からあり、例えば、人工知能で絵を描くソフト「Aaron」、自動作曲システム「オルフェウス」、俳句を作る「Hitch Haiku」、和歌を作る「星野しずる」、官能小説を作る「七度文庫」などの例がある。

 ただ絵画や音楽の場合は、ランダムに描いたり音符を適当に配置するだけで、「前衛絵画や前衛音楽と言えなくもない」(松原教授)。文字数の制約が大きい和歌や俳句も、文字数が合うフレーズをランダムに組み合わせてそれなりの作品にできる可能性が高い。官能小説はシチュエーションが限定されており、目的がはっきりしているため、自動生成しやすい面がある。

 ショートショートのように目的が限定されおらず、あらゆる表現やシチュエーションが可能な形態の小説で、クオリティの高いものを自動生成するのは困難なチャレンジだが、星さんが講演で語り残し、CDとして販売されている「ひらめきの法則」に、そのヒントがあるという。

画像 瀬名さん

 CDジャケットに書かれた講演メニューには、「まずは定石を覚えること」「アイデアとは異質なものの組み合わせ」とあり、「常識を覚えた上で、発想の転換をしていくことが星さんのショートショートの作り方」(瀬名さん)だ。これをコンピュータに適用し、コンピュータに常識を覚えさせた上でさまざまな組み合わせを試させれば、星さんの作品の作り方を再現できるかもしれない。「トライアンドエラーは人間よりコンピュータのほうが得意。人間が常識に邪魔されて捨てていた組み合わせをコンピュータが作り上げ、今までなかったショートショートができることを期待している」(松原教授)

 「最初は駄作ばかりでてくるだろう」(松原教授)が、さまざまな方法を試しながらクオリティを上げていく。完成した小説が“星新一レベル”に達しているか評価するのは難しいが、コンピュータによる評価プログラムである程度絞り込んだ上で、星新一作品に詳しい作家などに判定してもらうことを検討。「一定の確率で高水準の作品を作ることをどう実現するかがポイントだ」(松原教授)

 人工知能で小説を書く試みは「人間の作家に対する冒涜(ぼうとく)と言われるかもしれない」(松原教授)が、「コンピュータという道具を使い、人間のすばらしさを証明するのが人工知能研究者の目的。星さんのすばらしさを再確認できるプロジェクトになればと、星さんのファンとして思っている」(松原教授)。

 瀬名さんも、作家としてコンピュータに次に期待するのは「創造性やクリエイティビティ、ひらめき」だと話す。「星さんの作品を解析することで、そこに一歩踏み込んでいけるのでは」(瀬名さん)

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