5月29日、自民党、公明党、日本維新の会が児童ポルノ禁止法改定案を衆院に提出した。同案は、写真やデジタル画像などの児童ポルノの単純所持を禁止し、さらに漫画・アニメの規制にもつながる「調査研究」の実施が盛り込まれている。同案の問題点・懸念点について論じた作家・マンガ研究家の幸森軍也さんに、漫画原作も手がける作家の堀田純司さんがインタビューし、改定案やこれをめぐる背景などについて語ってもらった。(編集部)
幸森さんの論説:児童ポルノ禁止法改定の真の目的は何か? 単純所持禁止、マンガ・アニメ「調査研究」への懸念
――幸森さんは先の論説で、今回、国会に提出された「児童ポルノ法」の改定案について、その6つの項目を取り上げ、問題点を指摘しました。
この改定案は本来、「児童を守ろう」という善意で提案されたものだとは思います。被害者の存在する実写の児童ポルノを禁止する。幸森さんも語っているように、このことには非常に大きな意義がある。ですがそれを空想の領域まで拡大することに含みをもたせる必要はあるのかどうか。ここは論議が必要だと思います。
「児童ポルノの単純所持の禁止」と、その適用範囲の「漫画やアニメ、CGへの拡大」。この2つの規制強化が組み合わさることの本質的な意味と、弊害の大きさに改訂推進側は気がついているのでしょうか。本当のところは、“よく分かっている”のかもしれませんが。
幸森 少なくとも「不快なものをこの世から抹殺したい」という信念の強さは感じますね。その意味では信念の人たちとは思いますが、正直に言って、その創作物全体に対して及ぼす影響への想像力は、感じられないんです。
――「児童ポルノ所持等の禁止」という改訂案が実施されると、規制を反対する側の人から「じゃあドラえもん」に登場する入浴シーンはダメか。「ドカベン」もダメかという声が上がります。
恐らく政府としては、苦笑しながら「それは極論であって、そこまで過激な運用はしないよ」と思っていることでしょう。確かにそうなのでしょう。しかし実はそうした「恣意的な判断」こそが、最大の問題だと思います。
幸森 そうなんです。その通りだと思います。そこに恣意性が入っちゃうんですよね。しかし、そもそも児童ポルノとはいったいなにか。その定義が恐らく、世界的に明確じゃないわけです。それを「これは名作、これはポルノ」と恣意的に判断して運用できるっていうこと自体が怖いじゃないですか。
どこが芸術でどこが芸術でないか、っていう線引きっていうのが、よくわからないですよね。それは本来、分類できるものではないんです。見る人によって、あるいは見る時代によって変わるものですから。
もちろん、多様な漫画表現の中には、外部の人から見て眉をしかめるような作品は確かにあるでしょう。それらは全てがOKとは言えませんけども、でもそうした混交こそが、創作じゃないですか。もし漫画が、善男善女の、いい話ばっかし描いてあるようなものだったら「そんなの誰も読まないんじゃないですか」と思いますけどね。
――有名な出版社から出ている有名な作者の、すでに評価の定まった作品ならいいのでしょう。でもそうじゃない作品はどうするのか。まだ無名だけどもの凄い才能がある人が、凄いエロ漫画を描いていることもあるでしょう。それが芸術かポルノかなんて、もし分類できるようなら、その分野はずいぶんとつまらないものでしょうね。
幸森 また改定案では「自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノ所持等についての罰則の新設」と定めていますが、これもおかしい。「性的好奇心と満たす目的」と「研究目的」をどう線引するのでしょうか。
――資料として持っていることも当然あり得る。
幸森 そう。たとえば図書館は資料として持っている。しかし個人の場合、性的好奇心で持っているのかどうか、どうやって分かるんですか。「僕はまったくの熟女ファンでロリコンでは断じてない。しかし興味はないけれど一応資料として持っている」と言えばセーフなんですか。「いったいそれをどうやって判断するんですか?」という話でしょう?
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