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「iPad卒業証書」に込められた狙いと思い 自由に使えるタブレットが「未来につながれば」

» 2015年03月30日 16時41分 公開
[山崎春奈ITmedia]

 東京・多摩市立愛和小学校の8人の卒業生に贈られた「iPad卒業証書」。「今の時代に合っていて面白い」という意見もある一方、12年後まで開けないタイムカプセルメッセージなど、「そのころiPadは使えないのでは」といった声もある。ユニークな試みの経緯と狙いを、プロジェクトを進めたカヤックに聞いた。

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 同小は昨年4月に開校し、全校生徒は約150人。松田孝校長は「1人1台のiPad」を掲げ、3Dプリンタを用いた授業など、ITやテクノロジーを活用した教育手法に積極的に取り組んでいる。

 カヤックの深津康幸さんは、電子黒板の開発プロジェクトに参加しており、そうした中で松田校長と知り合った。松田校長から「3月に巣立つ初めての卒業生のために、思い出に残る何かができないか」という相談を受け、カヤック社員有志によるプロジェクトとして始まった。

 どんな卒業式にしたいかを6年生とアイデアを出し合ったり、クリエイティブについて学ぶ授業を通じ、いくつかある案の中から決まったのが「iPad卒業証書」だった。iPadは授業で使っているが、学校に備え付け。児童が卒業後も、学びたい時、新しいことに取り組みたい時に手元にiPadがあれば──と考えた。

 「単なる記念品ではなく、小学校で学んだことを生かし、自分でこれからの使い方を考えられるように個人の手元にあることには意味があると思った。使ってもらうことが重要」(深津さん)

 学校側から挙がったのは「iPadをどこから調達するか」。「1人1台のiPad」を実現するために松田校長が奔走し、企業からの貸与でようやく調達した過去もある。卒業生は8人とはいえ、プレゼントするには難しい金額だ。そこで、卒業生に完全に譲渡できるように、企業の協賛などではなく、使っていない中古の実機をカヤック社内外募って集めた。

 画面に並ぶ専用アイコンはアプリではなく、タップするとWebページにつながる。卒業生8人それぞれに向けた手書きのメッセージが教職員やクラスメイト、下級生から寄せられており、プリセットされた収録コンテンツは卒業生1人1人のために作られたオリジナルのものだ。

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 将来の自分に向けた3年後、6年後、12年後にしか開けないタイムカプセルメッセージもある。これもクラウドに保存され、URLで閲覧する形式だ。更新は、深津さんたちプロジェクトチームが手動で行うことにしている。「そのころはもうiPadを使っていないのでは」と指摘する声もあるが、それは折り込み済みで、ほかのデバイスからも閲覧できるよう設計しているという。

 「逆に何を使って見ることになるか楽しみですよね。普段働いてると数年後何をしているかすら分からないので、12年後と言われても僕らにとっても未知。このプロジェクトに関わる中で、テクノロジーや自分の未来についても考えさせられました」(深津さん)

 卒業生にはプロジェクトメンバーの個人的な連絡先も伝えた。タイムカプセルメッセージに関する不備やサポートが必要な場合はもちろん、いずれ彼らがWebやITに興味を持つことがあれば、“人生の先輩”として連絡や相談を受けられるように――だという。

 「小さなころからデジタル環境が当たり前のようにある子どもたちがこれからどう育っていくか。誰かの未来に何かしらの形でつながればいいなと思います」(深津さん)

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