ITmedia NEWS >

NASA研究のレーザー推進なら3日で「火星の人」に?

» 2016年03月08日 19時23分 公開
[大村奈都ITmedia]

 NASAは、火星有人探査に向けて宇宙飛行士の公募を開始しているが、その先のことも考えているようだ。

 火星などの惑星探査を効率的に実現するため、NASA(米航空宇宙局)は本気を出してきたようだ。NASAのサイエンティストであるフィリップ・ルービン氏は、英WIRED誌のインタビューで、夢の推進機関であるレーザー推進システムについて言及している。

 お隣の惑星である火星へ行くまで、現在の技術でどのぐらいかかるだろうか。H-IIBロケットなどで打ち上げた宇宙船は、早くて片道数カ月、おそらく1年以上かかると見積もられている。無人探査機ならいいが、有人宇宙飛行では長すぎる飛行時間だ。例えば日本の小惑星探査機はやぶさは、火星より近い小惑星イトカワまで、トラブルを別にしても片道2年以上の道程だった。

 もっと効率を良くするためには、どうすればよいか。ここで発想を転換して、宇宙船にロケットを搭載するのではなく、出発点(地球か、実用的には月面基地)から収束させた光速の粒子、つまりレーザーを宇宙船の背後から照射し、その反動で前進させる。これがレーザー推進システムだ。要するに、足をどんどん伸ばしながら地球の表面を蹴り続けて前に進むようなものだ。エネルギーを地上から供給できるので、宇宙船に大量の燃料を搭載する必要はなく、効率よく加速し続けられる。

 レーザー推進システムを使えば、100キログラムの自律型ロボットを3日間で火星に送り込める、とルービン氏は言う。有人宇宙船の場合は重量が増えるため、もう少し時間がかかるが、それでも1カ月で火星に行けるとしている。これは、現在検討されているどんな有人火星飛行の方法より短い時間だ。

photo 現在のNASAの火星探査はロボットを活用
photo NASAによる火星までの航路の概念図

 レーザー推進システムは、比較的軽量な無人探査機に向いている。有人飛行に応用するためには、火星上空に着いてから減速する仕組みと、なにより復路で同じように加速・減速する仕組みを考えておかねばならない。このため、有人飛行で利用できるのは、火星基地を作ってからになるかもしれない。しかし、火星基地が建設されるまでの間も、レーザー推進システムによる機材の無人運搬は役立つだろう。

 レーザー推進システムは大きな可能性を秘めており、ルービン氏によれば光速の30パーセントまで加速できる、このシステムが不可能な既知の理由はない、としている。

 さらに夢のある話として、NASAのライアン・ウィード氏は、反物質エンジンを研究している。近年、多くの恒星系で人類が移住できるかもしれない地球型惑星が見つかっているが、到達するためには光速でも数年、数十年かかる。有人飛行でたどり着くには、光速の数十パーセントまで加速しなければならない。電子と陽電子をぶつけて、レーザー推進よりさらに高い100パーセントの効率で物質をエネルギーに変えるエンジンが必要になる。こちらの研究にも期待したい。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.