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“本物の歌舞伎”とネットの化学反応 老舗・松竹が本気で挑んだ「超歌舞伎」ができるまで(4/6 ページ)

» 2016年06月18日 11時00分 公開
[山崎春奈ITmedia]
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小野里さん それはもう! 初回から大盛り上がりで、あんなに「大向う」(客席からの掛け声)が飛ぶなんて……。2日間で5回の公演を行ったんですが、回を追うたびに目に見えて客席の熱気が高まっていきました。2日目は開場1時間くらいで整理券がなくなってしまって、自由席も含めて会場は超満員でした。

野間さん すごかったですね。大向うが本当にすごかった。歌舞伎を初めて見る人も多かったと思うのですが、「こんな風に声を掛けてくださいね」と冒頭で説明したら、すぐに行動してくださる素直さが本当にありがたかったです。小学生くらいの女の子がかわいい声で「はつねや!」(初音屋、初音ミクさんに今回付けられた屋号)と叫んでくれていて、涙ぐんでしまいました。

photo 冒頭に屋号の説明
photo コメントでも「初音屋!」「萬屋!」が飛ぶ

松岡さん 獅童さんかっこいい! ミクちゃんかわいい! と心から思って屋号を叫んでくださっているのがよく分かりました。普段の歌舞伎公演の大向うはいろいろな決まりごとがあって、お客さんが自由に声を掛けにくいこともあるのですが、超歌舞伎は全く違うスタイルでしたね。会場いっぱいの皆さんが思い思いに声を掛けてくださって、歌舞伎の新しい側面を感じられて本当にうれしかったです。

野間さん 客席が熱狂し、気持ちが高まって声が出る。ああ、江戸時代はこうだったのかな、と、歌舞伎の本質を見せつけてもらったような気がしました。これからもこういうものを作っていかなければ、と強く思いました。

photo 観客を盛り上げる中村獅童さん

――初めて歌舞伎を観る人、若い人も多い場所でしたが、何か演出面で意識したことはありましたか。

松岡さん ドワンゴさんにはプロジェクトが動き出した当初から「ニコニコユーザーが感情移入できる作品を作ってほしい」という要望をいただいていました。どうしても歌舞伎というと、特に若い世代は格式高い伝統芸能として身構えてしまう。堅苦しいイメージを覆すような、分かりやすく誰もが楽しめる作品を、一緒に参加する気持ちになれるようなものを、と。

小野里さん 私たち自身も“本物の歌舞伎”を一緒に目指したいと思いましたし、それがずっと製作の大きな指針でした。どうしたらお客さんにも参加してもらえるのかを突き詰めていったことで、最初に想定していた「若いネットユーザー」だけでなく、誰にでも分かりやすく、心に刺さるものにできたのだと思います。それはとてもうれしい誤算でした。

野間さん その意味で、大きなハードルの1つは言葉でした。横澤大輔さん(ドワンゴの「超歌舞伎」担当プロデューサー)にずっと「言葉が分からない」「もっと砕いた言葉にしてほしい」と言われ続けて……脚本、何回書き直したんだろうね?

――目で見ても分かるよう、会場のスクリーンには常に字幕が出ていましたよね。

photo 映像とともに字幕が

小野里さん スーパー歌舞伎II ワンピースは、せりふの多くが現代語だったんですよね。今回は古典の言い回しがほぼそのままだったので。

松岡さん どこまでなら「分かる」のかもかなり悩みました。例えば、忠信の最初のせりふは「三千世界、常世の闇」で始まるんですが、これは「分かる」んですよ。なぜなら「千本桜」の歌詞に出てくるフレーズだからです。古典の言葉を使いつつ、すんなり「今昔饗宴千本桜」の世界へいざなう思いを込めて、冒頭に持っていきました。

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