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“本物の歌舞伎”とネットの化学反応 老舗・松竹が本気で挑んだ「超歌舞伎」ができるまで(1/6 ページ)

» 2016年06月18日 11時00分 公開
[山崎春奈ITmedia]

 松竹とドワンゴがタッグを組み、ネットユーザーが集まる「ニコニコ超会議」(4月29〜30日、千葉・幕張メッセ)で上演した新作歌舞伎「今昔饗宴千本桜」(はなくらべせんぼんざくら)。主演に中村獅童さんと初音ミクを迎え、最新技術を駆使した「超歌舞伎」としてリアルタイムにネット配信も行い、歌舞伎ファン以外からも大きな注目を集めた。

photo コメントで埋まる「今昔饗宴千本桜」のニコニコ生放送

 通常の歌舞伎公演と異なり、多様な映像演出やNTTの協力による最新技術、VOCALOID・初音ミクによるデジタル音声など、伝統とテクノロジーの融合がテーマの1つだった超歌舞伎。演技面では歌舞伎の伝統や作法を守りながら、さまざまな演出や工夫がある舞台に「松竹、本気だ」「挑戦的な企画」「もっと堅い会社だと思っていたので意外」などの声も多く上がった。

 創業120周年を迎えた老舗・松竹と歌舞伎俳優が本気で超歌舞伎に挑んだ理由、通常と全く異なる製作過程での苦労、客席やネットの反応を通して感じたことは――超歌舞伎の企画を担当した松竹の野間一平さん(執行役員・演劇開発企画部長)、プロデューサーの小野里大輔さん(歌舞伎製作室)、脚本を担当した松岡亮さん(演劇制作部芸文室)に、企画・製作の裏側を聞いた。

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――これまで相撲や将棋などを盛り上げてきた超会議についに歌舞伎が! と驚きました。どんな経緯で超歌舞伎の製作に至ったのでしょうか。

野間さん さかのぼっていくと4年ほど前、当時不動開発をしていた私を含む松竹の営業担当チームが、超会議を運営しているドワンゴさんに「新しくできる歌舞伎座タワーにオフィスを移転しませんか」と誘致の声掛けをしたのが関係の始まりです。

 無事に移転が決まったところで、会社移転のポスターと挨拶状を歌舞伎俳優の口上のようなビジュアルにしたい、はかまを着て白塗りで撮影したいという相談をいただいて、小道具や衣装など松竹の資産を生かして本格的にお手伝いしました。その後さらに「リアルなイベントの場でも」ということで、2013年4月の「ニコニコ超パーティーII」の冒頭で、川上量生会長はじめ経営陣の皆さんに、歌舞伎俳優さながらの装いで並んで口上を述べていただいたんです。松竹とドワンゴの共同製作は、3年前のこちらが“初作品”ですね。

小野里さん この時も野間が先頭に立ち、私がプロデューサーとして入り、口上の脚本は松岡さん。今回の「超歌舞伎」と全く同じ布陣なんです。奇しくも会場も同じ、幕張メッセのイベントホールでした。

――なんと、3年前の布陣で再タッグを!

photo 松竹 野間一平執行役員・演劇開発企画部長

野間さん 実はそうなんです。その後もお会いするたびに「いつか何かやりたいですね」というお話はしていたんですが、こんな形になるとは。

 今回の話を具体的にいただいたのは15年11月末。ドワンゴの荒木隆司社長から「『超会議』でニコニコユーザーに向けた新しい歌舞伎をできないか」という打診がありました。なんでも、川上会長や荒木社長が漫画「ONE PIECE」を原作にした「スーパー歌舞伎II ワンピース」を見て、非常に心に刺さったと。ああいうアプローチの新しい歌舞伎を超会議の場でユーザーに見せたい――というお話でした。

 僕らとしても、若い人たちにもっと歌舞伎の世界に触れてもらいたいという気持ちは常にありますし、これまでのお付き合いの中でドワンゴさんの演劇や舞台に対する姿勢も知っていたので、比較的トントンと「ぜひ一緒に」と動き始めました。

 ニコニコユーザーの方に入ってもらいやすい題材、「超会議」の代名詞としてふさわしい存在はなんだろう……と考えるところから始まり、やはり「初音ミク」だ、と。しかも「千本桜」という紅白で披露されるような名曲もある。歌舞伎の世界の人間からしたら、このタイトルからは「義経千本桜」を思い起こすしかありません。劇中のキーアイテムとして「初音の鼓」も出てきますし、単に偶然なのかもしれませんが、初音ミクさんを軸に2つの世界を融合するイメージは比較的早い段階で決まりました。それが年末くらいですかね。

――キャスティングや脚本の制作はその後から。

小野里さん キャスティングの指針としては、まずニコニコのユーザー層に広く知られている人に主演をお願いしたいというのがありました。獅童さんの名前を発表してから「映画『デスノート』のリュークの人だ」「『ピンポン』の人だ」という反応を見かけましたし、皆さんもよく知っている歌舞伎俳優の1人だったのではないでしょうか。

photo 中村獅童さん演じる佐藤忠信

 それから、新しいものに対する姿勢ですね。獅童さんはご自身でも歌舞伎のこれからには古典歌舞伎と新作の両輪を回していくことが大切と繰り返しおっしゃっていますし、実際にさまざまな形で挑戦しています。今回お願いするにはぴったりだなと思いました。

 年が明けてすぐにお声掛けし、出演自体はすぐにご快諾いただきました。企画を説明した後の獅童さんの第一声は「どうなるか分からないね、のるかそるかだね」……率直な感想でした(笑)。

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