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“本物の歌舞伎”とネットの化学反応 老舗・松竹が本気で挑んだ「超歌舞伎」ができるまで(5/6 ページ)

» 2016年06月18日 11時00分 公開
[山崎春奈ITmedia]

――まさにそうですね、最初に「これは!」と思ってぐっと前のめりになりました。あとは終盤のあのせりふも……。

松岡さん 忠信の「あまたの人の言の葉を」でしょうか。

野間さん ここはもうギリギリに変更したんだよね。「もうこれで最終稿!」と決まった直後に、(ドワンゴの超歌舞伎担当プロデューサー)横澤さんから「ミクと忠信が千本桜をもう1度咲かせるクライマックスで、ユーザーのコメントを誘発するせりふを入れてほしい」と言われて。

photo クライマックスの場面では「弾幕準備」のコメントが

松岡さん 最後の最後にものすごく難しい宿題をいただいて……。ストーリーとして唐突にならず、歌舞伎の口調にも違和感なくなじませるにはどうしたらいいか、言い回しにとても悩みました。隈取姿の忠信が登場シーンで言う「ニコニコユーザーのコメントを得て」は歌舞伎的に“あり”なのですが、息絶えようとする忠信には同じ表現はあまりにもそぐわないですよね。

 「言の葉」ならコメントって分かってもらえるかな? と探り探り。この単語も、パッと聞いてすぐに「コメントのことだ」とピンと来るか不安だったのですが、「言の葉の庭」というアニメ映画もあるから大丈夫じゃないかと……。最終的には「あまたの人の言の葉を力とし、千本桜に再び花を」となりました。

小野里さん こちらの予想通り、いや予想を大きく上回る勢いの“弾幕”でニコ生の画面が埋まっていったのには本当に感動しました。コメントの力で千本桜が復活するストーリーと同じように、「超歌舞伎」自体もネットの向こうの皆さんのコメントによって花開いた、ものすごい化学反応があったんです。

――コメントの熱量もどんどん変わっていきましたね。

松岡さん コメントの力で生の舞台が何倍にも進化したと思います。会場にいる皆さんは「自分もコメントを打ちたい!」ともどかしい思いをされたでしょうし、ネット視聴している皆さんは「あっち側に行きたい!」と思ってくださったのではないでしょうか。

photo フィナーレはコメントで画面が埋まる

 公演中の反応もそうですが、作品に対する反響も普段とは桁違いでした。普段から自分が携わった作品への反応は、雑誌や新聞の演劇評、熱心なファンの方のブログなどで拝見しているのですが、今回は公演が終わった直後から普段歌舞伎を観ないような人からもどんどん感想が出てきて。「よかった!」「すごかった!」という感想をこれだけダイレクトに、リアルタイムにいただけたのは貴重な経験でした。

 舞台の上の歌舞伎俳優とお客さんがお互いに盛り上げあって、その場限りの熱狂を共有する――そんな奇跡のような瞬間は、狙ってもそうそう作れないんです。21世紀のインフラであるインターネットの力を心から感じましたね。

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