この記事は、J-WAVEのラジオ番組「JAM THE WORLD」で9月5日に放送された内容を、編集部で再構成したものです。
「音楽の未来を奪うチケット高額転売に反対します」――8月下旬、音楽関連4団体による声明が全国紙などに掲載され、話題になった。ライブチケットを買い占め、価格を釣り上げて転売する“ダフ”行為を批判する内容で、嵐やMr.Childrenなど100組以上の著名な邦楽アーティストが賛同者に名を連ねた。
「今更じゃないか?」。音楽業界に詳しいジャーナリストの津田大介さんは、声明を見てこう感じたという。チケットをネットで高額転売する「ネットダフ屋」の問題が浮上したのは10年以上前。海外ではさまざまな対策が試みられており、一定の成果を上げている中、「日本の音楽業界はほとんど対策をせずに手をこまねいてきた」と指摘する。
ネットダフ屋問題の本質はどこにあり、どのような対策が可能なのか――。津田さんと、エンターテインメント業界に詳しい弁護士の福井健策さんが話し合った。
CD市場が縮小する一方、ライブエンターテイメント市場は成長を続けている。チケット販売の主戦場がオンラインになり、ネットを通じた個人間のチケット売買が一般化する中、人気公演のチケットの高額転売が社会問題になっている。
主な転売の場は、「ヤフオク!」などオークションサイトや「チケットキャンプ」など転売サイトだ。個人による転売のほか、転売目的でチケットを購入する「ネットダフ屋」と呼ばれる業者が、専用プログラムを使うなどしてチケットを大量に買い占め、高額で転売して利益を上げているケースもある。
人気の公演は、チケットの転売量・額とも大きく、例えば「HiGH&LOW」(EXILEなどが出演する総合エンターテインメントプロジェクト)のライブチケットは、9月23日時点で「チケットキャンプ」に約5000件の出品があり、最高18万円で取引されている。
「チケットキャンプではこれまで、HiGH&LOWだけで累計5万2000枚以上の取引が成立している(9月23日時点)。イベントによっては3分の1ぐらいのチケットが買い占められ、転売サイトで出回っているとも言われ、問題はどんどん深刻化している」と福井さんは指摘する。
チケットがダフ屋によって買い占められ、高額で転売されるとどんな問題があるのか。声明では、
(1)チケットが本当に欲しいファンの手に入らない
(2)高額な転売チケットを購入したファンが経済的負担を受け、グッズ購入などの資金が減る
(3)入場できないチケットや偽造チケットが売られるなど犯罪の温床となる
――などを挙げている。
津田さんは、「定価で買えたかもしれないチケットに高額を支払わされ、上乗せされたお金はアーティストに還元されない。ファンも音楽業界も誰も得をしていない」と指摘。利益を得るのはダフ屋と転売サイトだけだ。
転売サイトはどの程度の利益を得ているのか。チケットキャンプの場合は、出品者・購入者双方から転売価格の5%を手数料として徴収している(チケット価格が8000円以上の場合)。「チケットキャンプでは、HiGH&LOWのチケット(定価1万2960円)は平均して1万円以上上乗せされて転売されている」(福井さん)ことから計算すると、5万2000枚で10億円以上が動き、運営側は1億円を超える収益を上げているとみられる。
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