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チケット高額転売問題、解決策は「いろいろある」 津田大介さん・福井健策さんの見方(2/5 ページ)

» 2016年09月23日 09時39分 公開
[岡田有花ITmedia]

高値転売は「市場原理」?

 一般的に、日本のライブチケットは座席間の価格差が小さく、1階最前列も3階最後列も同じ値段であることが多い。前の席のチケットは、価格に対して需要が極端に大きいため「転売すればもうかりそうな価格」(福井さん)になっており、これがダフ屋の暗躍を助長しているとの指摘も根強い。

 「高額でもいいからどうしてもライブに行きたいファンもいるし、必要悪と考える人もいるだろう。供給と需要が非常に不均衡だから起こる問題で、当然の市場原理だという指摘もある。公演回数を増やしたり、需給バランスに見合った適正なサイズのハコでできればいいのだろうが、会場不足は深刻でアーティスト側が選べる選択肢も限られているため、こうしたミスマッチがなくならない」(津田さん)。

 欧米では、席によってチケット価格に差がついていることが一般的。日本でも歌舞伎などは席によって価格差が大きい。音楽ライブのチケットのみ、座席にかかわらず価格が一律な傾向にあるのはなぜなのか。「一つには、アーティスト・ファン双方のある種のロマンチシズムがある」と福井さんは言う。

 「ライブ中に『3階席のみんなの顔もよく見えるよ!』と叫ぶアーティストもいる。アーティストとしては、ファンはみんな平等だから、平等な条件で売り出し、最前列から最後列までみんなが楽しめるイベントにしたいという思いがある。実際、ライブの盛り上がりはファンとの共同作業なので、その中心層が良い席から排除されない狙いもあっただろう」(福井さん)。

CDが売れていた時代は良かったが……

 問題の背景には、音楽業界のビジネスモデルの転換もあると、津田さんは指摘する。「日本の場合、CDがたくさん売れていた時代は、ライブがファンへの還元やプロモーションの役割という側面が強かったため、採算を気にしない公演も多く見られた。レコード会社に体力があった頃は、アーティストが所属する事務所に“支援金”という名目で、お金も流していたこともその構造に拍車をかけた」。

 「CDの売り上げ減が日本よりも顕著だった米英では、2000年代後半ごろから、CDからライブへのアーティストのビジネスモデルシフトが進んだ。レコード会社も“360度契約”と呼ばれるライブやグッズ売り上げから収益を得る契約に変わり、人気アーティストのチケット価格も高騰していったが、日本ではCDがまだそこそこ売れていたため、そうした動きに乗り遅れ、チケット価格も上がらなかった」(津田さん)。

 日本の音楽業界も変わるべき時期に来ていると福井さんは言う。「どうせ“ファン平等”は高額転売で崩れた。たくさん払える観客はいい席を高額で買って公演の収支を潤してもらい、代わりに後ろの席は低価格にしてリピーターの懐を楽にしてあげるなど、“全員が平等”ではないかもしれないが、価格に弾力性を持たせる方に舵を切るべき時期が来ていると思う」(福井さん)。

 最近は日本でも、チケットに価格差をつける音楽イベントが増えつつあるという。例えば、ダンスミュージックのイベント「ULTRA JAPAN 2016」は、1万3000円の「GA席」、3万円の「VIP席」、推定数十万円(価格は非公表)の「VVIP」席を用意。「価格差をつけて客の待遇にも差をつける」(津田さん)ことを試みている。

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