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そのノートPC、指一本でスムーズに開けますか? 米国担当者を魅了して実現した「ヒンジ」の心地よさ“中の人”が明かすパソコン裏話(2/3 ページ)

» 2016年11月07日 08時00分 公開

 ここで失うもの、それは「スムーズさ」です。

 本来、ヒンジはスムーズに扉や“ふた”を開けるために用いられますが、フリーストップヒンジではそれが失われてしまいます。分かりやすいところでは、ノートPCのディスプレイを開けたときに、キーボード側のシャーシが一緒に浮いてしまうような状態です。

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キーボードが浮いてしまう

 この状態を解決するために、ヒンジの反発力のような部分を調整し、ディスプレイが自由に固定されながらも不快と感じないギリギリのレベルでスムーズさを調整する必要があります。

 特に重さ1キロを切る軽量なノートPCの場合、キーボード側も軽いため、ディスプレイを開くつれてキーボード側も浮き上がってしまいます。弊社のノートPCの場合、ディスプレイパネルとキーボード側の重量バランスをとり、ヒンジのトルクを画面がグラグラしない最小レベルになるように設計のマイスターが調整しています。いわば“こだわりのレシピ”のようなものです。

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指一本でスムーズに開く

 構造上、指一本でスムーズに開くような調整ができない製品もあります。そういった製品は画面が取り外せるなど、別の特徴を持っていることが多いので求める機能とのバランスを考える必要があります。

 裏話ですが、弊社でもこの指一本でスムーズに開くヒンジを得ることは非常に困難な道のりでした。そもそも、このようなヒンジのトルクまでこだわった製品は少ないのです。一般化していないことを推し進めるのは容易ではありません。しかし、いざ製品化したのもの使用してみると、事実として明らかに気持ちが良いのです。

 ここでも、共感力が重要になります。製品開発のROI(投資対効果)を考えた場合、正直言ってこのような性能は、なかなか評価ができません。

 米国の製品担当者が来日した時に、ここぞとばかりに指一本でスムーズに開くヒンジを実現したノートPCをパカパカ開け閉めさせて、「気持ちいい体感」を持ち帰ってもらいました。共感を得ることで、ROIなど度外視してでも「何としてもアノ素晴らしいヒンジを実現しよう!」という力に変わってくるのです。数値的な情報だけでは困難を乗り切ることができないのです。

 結果的にこのようなヒンジを持つことは、製品のセールスにも確実に作用すると確信しています。ユーザーは製品を提供側が考える以上に、このような見えないこだわりを感じ取り、無意識に製品への評価を決めているのです。

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