舞台は2026年。ヘッドフォン型のAR(拡張現実)端末を装着すると、街の光景がバトルフィールドに様変わりし、巨大なモンスターが襲いかかってくる――そんな近未来のゲームを描いたのが、アニメ映画「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」だ。2月18日に公開され、日本国内での観客動員数は170万人以上、興行収入は24億円を突破した(4月16日時点)。
ARゲームといえば、昨年から今年にかけてスマートフォンゲーム「Pokemon GO」が社会現象になったことが記憶に新しい。しかしAR技術がより身近な存在になっているとはいえ、進化した近未来の技術を想像し、アニメの世界で描くのは容易ではないはず。
架空のガジェットや技術は、どのようにして描かれたのか――「ソードアート・オンライン」のテレビアニメ版から劇場版まで、一貫して手掛けている伊藤智彦監督に制作の舞台裏を聞いた。
川原礫さんの小説が原作(電撃文庫 刊)。2009年に原作第1巻が発売され、アニメ、漫画、ゲームなど幅広くメディアミックスを展開している。テレビアニメのあらすじは以下の通り。
2022年、「ナーヴギア」というヘッドギア型VR(仮想現実)デバイスが登場し、世界初となるVR MMORPG「ソードアート・オンライン」が発売された。しかし、開発者の茅場晶彦の思惑によって約1万人のプレイヤーが仮想空間に閉じ込められてしまう。脱出する方法は、ゲームをクリアすることのみ――。ゲーム内で体力がゼロになると現実世界でも死亡するという過酷なルールの中、主人公のキリト、アスナたちはゲームクリアを目指す。
「劇場版ソードアート・オンライン」は、この物語から4年後(2026年)が舞台。新たにウェアラブルARデバイス「オーグマー」が登場し、覚醒状態の人間に視覚や聴覚情報を送り込むことが可能に。オーグマーを装着すると現実世界にモンスターが現れるAR MMORPG「オーディナル・スケール」が話題になっている。
――テレビアニメ版の主題がVR(仮想現実)だったのに対し、劇場版はAR(拡張現実)が主題になっている。制作の経緯は。
伊藤監督: 劇場版のオリジナルエピソードを作ろうとなったとき、原作者の川原さんから「ARを題材にしましょう」と提案がありました。「テレビシリーズと同じVRゲームではなく、新しいARゲーム」という差別化を図る意味で明確な理由はあったのですが、そうなると「VRよりARは退化して見えるのでは」という制作陣の懸念がありました。体を実際に動かして戦わないといけないので、それを面白く見せられるのかなと。
――ARをアニメの中で描くときに、注意したことは。
伊藤監督: VRの世界なら(生身の人間にはできないが)高くジャンプしたり、勢いよく走り出したりしても「ゲームだから」と許してもらえます。しかし(現実世界に情報を重ねるだけの)ARだと、基本的に無理でしょう。すごい技を繰り出しているように見えても、あくまでキャラクターの視点で、派手に見えているだけとか、ゲームの中のキャラはものすごく動いているだけですよとか、何かしらのエクスキューズが必要だと思っています。
作中では、キャラクターのほとんどが生身の人間なので、飛んだり跳ねたりはしていません。風林火山のメンバー(※)が入れ替わり立ち替わりモンスターに攻撃を繰り出す場面も、身体能力が普通の人でもできる範囲にとどめました。
(※)風林火山……メインキャラクターの1人であるクラインが仲間と組んでいるギルドの名前
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