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「バベルの塔」がもう1枚!? タブーを超え実現した「クローン文化財」制作秘話(3/3 ページ)

» 2017年06月22日 08時00分 公開
[村田朱梨ITmedia]
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テロへのカウンターも? クローン文化財が目指すもの

 東京芸大のクローン文化財への取り組みはバベルの塔にとどまらない。これまでにも、焼失した法隆寺の壁画や本尊などの複製を制作してきた。

photo まるで本物がそこにあるような存在感

 「クローン文化財の可能性は4つある」と制作グループは話す。「1つ目は、国外へ流出した文化財のクローン文化財を作り、本国へ共有すること。2つ目は、保存状態などで公開期間が限られるものや非公開の文化財を再現し、展示すること。そして3つ目は、経年によりオリジナルの価値が失われた文化財を元のように復元すること。最後に、テロや紛争で失われた文化財を復元すること」。

 実は、同大とオランダの出合いも文化財の復元に端を発している。マルク・ルッテ首相が2015年11月に同大を訪れた際、クローン文化財に目を留めたのだという。当時制作グループが手掛けていたのは、テロリストによって破壊された「バーミヤン大仏天井壁画」のクローン文化財だった。

 「破壊されてしまった文化財のその後について考えたとき、ひとつの解決策としてクローン文化財があり得ると思っている。クローンとして文化財を復活させることで、テロによる文化財の破壊は無意味だと証明する力になるかもしれない。クローン文化財を用いた文化外交を、世界平和の推進につなげたい」と制作グループは言う。

 人々にとって身近な意義もある。大学がクローン文化財を作れば「作品を見る機会を増やせる」と、制作グループは話す。

 「日本国内において本物を間近で見ることはとても難しい。有名な作品に限らず、さまざまなクローン文化財を作り、人々が芸術に触れる機会を増やすのは、学校名に芸術を冠する大学の使命だ」(制作グループ)

photo 制作グループの皆さん

「クローン文化財」のこれから

 制作チームによれば、クローン文化財は「単なる信ぴょう性・妥当性の高い複製や復元を目指しているのではない」という。

 「私たちは、クローン文化財を見た人を“感心”させてはいけないんです。大切なのは、芸術作品を見た人の心がどう動くか。本物の持つたたずまいや雰囲気までもを再現することで、人々に“感動”してほしい」

 かつて日本の芸術家たちがデジタル技術を忌避していたように、デジタル複製画の世界にも「今さらアナログなんて」という声もある。国を超え、互いの技術を尊重した共同研究は、とても貴重だったという。

 東京芸大は、バベルの塔のクローン文化財制作で得た知識や技術を、今後の制作にも活用していく。9月23日からは、これまでの集大成というクローン文化財だけの展覧会「シルクロード特別企画展 素心伝心 クローン文化財 失われた刻の再生」を東京芸術大学大学美術館で開く予定だ。

 クローン文化財を展示しているStudy of BABEL展の開催は7月2日まで。バベルの塔展も同日までの開催だが、こちらは7月18日から大阪会場でも開かれる。大阪のバベルの塔展でも、クローン文化財と同じ方法で作られた拡大複製画を見ることができる。

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