ITmedia NEWS > STUDIO >

驚異の12分間回転――「ハンドスピナー」開発にアツくなる企業の正体(2/4 ページ)

» 2017年09月06日 07時00分 公開
[片渕陽平ITmedia]

 そんな同社がハンドスピナーに目を付けたのは、ヨーヨーの元世界チャンピオンである長谷川貴彦さんの言葉がきっかけだ。「ヨーヨー愛好家が多い米国で、ハンドスピナーが流行し始めている」――ヨーヨー向けベアリングを共同開発してきた長谷川さんが石井社長にそう教えたのは、2017年の初めごろだったという。

photo NSKマイクロプレシジョンは約2000種類のベアリングを製造している

 「聞いたことがない」と半信半疑の石井社長だったが、「こんなにベアリングが注目される機会はない」と長谷川さんが後押しし、開発が始まった。

 石井社長は「開発当初は、単純に日本製のベアリングを使えば、よいハンドスピナーが作れると考えていた」と話す。当時、米国などで出回っていたハンドスピナーは、内部のベアリングの表面がでこぼこだったり、寸法の誤差が大きかったりと粗悪なものが見受けられたという。

photo 初期の試作品

 だが石井社長の試作品に対し、長谷川さんは「デザインは悪くないが、回転時間が2分程度では物足りない」とダメ出し。それなら「ベアリングの専門メーカーが作るからには、他社モデルに負けないものを本気で作ろう」と、10分間以上回転するスピナーを目指すことに決めた。

 「ハンドスピナーの評価は主観的。回したときの質感、デザインなど、ユーザーによって求めるものは異なる」と石井社長。ベアリングメーカーがハンドスピナーを作るとなると「他社製品と比べて何を売りにできるか」を考え、回転時間の長さを重視することにしたと話す。

「本業を少し邪魔した」

 長く回転させるために必要なのは(1)回転のスムーズさに影響する「トルク」を軽くすること、(2)遠心力を大きくすること。同社が製造するベアリングは約2000種類。その中からハンドスピナーの荷重に耐えられるものはどれか、特にトルクが軽いモデルはどれか――など、選定する作業を続けた。遠心力が大きくなるように、ハンドスピナーの中心部分(ベアリングを収納する部分)を軽く、外輪部分を重くするという調整もしなければならなかった。

 開発は急を要した。試作品の研究・開発が本格化したのは4月。そのころには、日本でもハンドスピナーが徐々に話題になり始めていたからだ。

 石井社長が注目したのは、日本最大級の玩具展示会「東京おもちゃショー2017」(6月1〜4日、東京ビッグサイト)。「各社がハンドスピナーを出展し、注目を集めるはず。その中に入れないか」とにらみ、開発を急いだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.