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» 2017年09月14日 07時00分 公開

東京五輪へ連れてって:体操界に遅れて来た“IT革命”――採点の常識覆す、富士通の挑戦 (2/4)

[村上万純,ITmedia]

高速で複雑な選手の動きを数値で“見える化”

 自動採点支援システムは、富士通が自動車向けに開発していた「3Dセンシング」技術を活用している。230万点/秒の細かなレーザーを選手に向けて発射し、レーザーが返ってくるまでの時間から体の位置や体勢を捉えるという。人工知能(AI)技術の機械学習を使い、骨格の位置を推定。手足の位置や関節の曲がり具合などを導き出し、AIを使って、体操競技の動きをデータベース化した「技の辞書」と照合して採点する。選手の演技や、審判のジャッジ、観客の応援などを邪魔しない、高精度で正確な採点の実現を目指す。

3D 「3Dレーザーセンサー」を活用した体操の自動採点支援システム(画像は開発中のもの)

 選手の体にマーカーを付けて動きを測定するモーションキャプチャー技術などもあるが、これだと演技に支障が出る。3Dレーザーセンサーなら、2〜4台のカメラを設置するだけで済む。

 「採点には、押さえるべきポイントがある」と藤原さんは話す。重要なのは、肩、腰、脚のラインと器具のラインが平行になっているか、それを逸脱しているかなどで、ルールで細かく規定されている。そのラインの角度が15度以上ずれているかどうかなどを、今は審判の肌感覚で判定している。

 そこで、骨格の関節に番号を付け、「1番と3番がずれている」「ずれている角度が15度未満だから欠点(減点)は0点」など、誰にでも分かる形で数値化する方法を取った。

 しかし、体操競技の採点は非常に専門的で複雑なため、開発は骨の折れる作業の連続だ。約60人いるプロジェクトチームのメンバーは、何度も体操競技の練習場や審判講習会などに足を運び、採点方法を一から学んだ。

 先述した、骨格の番号付けや技の認識、減点に関わる部分も、テクニカルコミッティーという委員会と何度も確認を取りながら1つ1つ決めていく。「20年の東京五輪での実用化を目指し、より正確な判定ができるよう18年にかけてマニュアルを作っている最中」(藤原さん)

 また、日常生活ではあり得ないような、高速かつ複雑な体の動きを認識させるには、精度の面で困難さが伴うという。「もともとは趣味のゴルフに応用した3Dセンシング技術を体操にもと思ったが、体操の複雑な動きを測定する上での正解値がまだ分かっていない」(富士通 応用研究センター ライフイノベーション研究所 所長 佐々木和雄さん)

 「腕の曲がりが30度のとき、それが本当に30度と測定できているのか。空中回転、ひねりなど、普通でない動きも高精度に認識しないといけない。死角のないカメラ配置なども重要になる」(佐々木さん)

 これらが国際大会で実用化されれば、審判の負担は多少なりとも軽減され、選手や観客も採点に納得感が出るだろう。

 しかし、選手の動きを“見える化”することの恩恵は、これだけではない。私たち観客の観戦スタイルや、選手のトレーニングにも変革をもたらす。

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