「高齢ドライバーの事故」が社会問題化している。
警察庁によると、2005〜15年の10年間で全体の死亡事故件数は6165件から3585件まで減少したが、75歳以上の高齢ドライバーによる死亡事故件数は横ばい。高齢者人口の増加に伴い、死亡事故全体に対する高齢者の構成比は増加傾向にある。
国土交通省の江坂行弘課長(自動車局 技術政策課)は、「自動運転技術は、高齢ドライバーの事故に対し、特に有効だ」と話す。同省は自動運転技術等の先進安全技術を採用したクルマを「安全運転サポート車」と位置付けて普及を推進しており、20年までに「乗用車の9割以上に自動ブレーキを搭載する」としている。
高齢ドライバーの死亡事故は、正面衝突、人対車両・追突が7割。事故原因で多いのは、運転操作ミスや脇見運転、不注意などによるもので、運転徘徊なども問題視されている。ブレーキとアクセルの踏み間違えによる死亡事故件数(11〜15年)は、75歳以上が48%と半数を占める。こうした運転操作ミスによる事故は、「レベル1」の自動運転技術で防ぐことが期待されるという。
「自動運転レベル」は、自動化の度合いによって0から5まで6段階のレベルが定義されている(レベル0はシステムが介在しない旧来の自動車のため、実質的に5段階)。
自動運転レベルは、運転に関わる3つのタスク――「操舵と加減速」「走行環境の監視」「システムが動的運転タスクを制御できない場合のフォールバック」をドライバーと車両(システム)のどちらが担うかで分類したもの。
レベル別に実用化が見込まれる自動運転技術は主に以下のものがある。
レベル1は実用化済みで、レベル2の普及も始まっている。レベル3は20年をめどに実用化する予定だ。
国交省は、高齢者向けの安全運転サポート車(ver.1.0)を「ベーシック」「ベーシック+」「ワイド」の3タイプに分類した。それぞれ、主に以下の機能を備える。
これを普及させることで、高齢ドライバーの事故で多い正面衝突や追突、事故原因で多い操作ミスなどを軽減する狙いだ。
どうやって高齢者に自動運転車を買ってもらうかという問題もある。江坂課長は「10万円以上だった自動ブレーキも今は数万円で搭載でき、今後も低廉化が進むので買い求めやすくなっている」と話す。
価格の問題はテクノロジーの進化と生産ボリュームで解決できるが、心理的な障壁もあるという。「私も高齢の親がいるが、運転レベルが落ちていることをなかなか認めない」と江坂課長は笑う。
個人差があるため、高齢ドライバーとひとくくりにできるものではないものの、年齢と共に運転レベルが落ちていく面はあるだろう。「自動車教習所で高齢者向けに講習することもある。教習所も経営が苦しいため、新たな客層としても注目されている」(江坂課長)
そんな中、重要になってくるのが「家族の後押し」だ。高齢者がクルマを買う際は家族の意向が重要になるため、家族を含めて自動運転技術を体験できる試乗会なども開催されているという。
クルマメーカー各社も自動運転に注力しているが、高齢者向けにアピールしてるだけでは売上が厳しい。江坂課長は「販売サイドは高齢者だけでなく若者向けの普及・啓発に力を入れている。広く広めたいのは国交省も同じ」と話す。
普段運転をしない高齢者にとっても、自動運転技術の恩恵は大きいという。
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