それではコインチェックのCMに出演した出川氏は、何らかの法的責任を負う可能性はあるのでしょうか。
コインチェック社に対しては金融庁より業務改善命令が発出されている状況ですが、裁判例で紹介した前3件(抵当証券の多重売り、円天、原野商法)はいずれも詐欺的商法事案であるのに対し、コインチェックの事案は、セキュリティ対策の不備により顧客の預かり資産を外部流出させてしまった事案と現時点では見られています。
もっとも、コインチェック社は仕入れていないNEMをユーザーに対して一定期間販売していた疑いや、仮想通貨の取引を使った「原野商法」と「ノミ行為」とのセットによって高収益を実現してきた疑いがある旨を指摘する記事もあり、これらの疑いが事実だとすれば前3件の詐欺的商法と何ら変わらないという認定がなされる余地も否定できません。
・コインチェック社「持ってないコインを消費者に売る」商法と顛末 山本一郎氏
次に出川氏のCMは
「じゃあ教えてよ。何でビットコインはコインチェックが良いんだよ」
「やっぱ知らないんだ」
「兄さんが知らないはずないだろ」
と繰り返すものであり(コインチェックCM「兄さんは知らないんだ」篇より)、コインチェック社に対する信頼を高めるものと言えます。
そして前記の裁判例の基準により、出川氏側がテレビCMに出演した当時、CMを視聴した顧客がコインチェックで取引することにより損害を被る危険があることを予見できたかどうかを検討するに、
の反面で、
などからすれば、現時点で判明している事実を前提とする限り、出川氏がコインチェックのCMに出演したことをもって、出川氏(及び所属プロダクション)が何らかの法的責任に問われる可能性は相当に低いものと考えられます。
今回紹介した裁判例は、広告出演する芸能人側は、広告主の商法に疑念を抱くべき特別の事情があるなど一定の場合には、広告主の事業実態や経済活動等について調査・確認をすべき義務や出演を回避すべき義務があることを認めています。
「頼まれた仕事だから出演しただけ」「どんなスポンサーかは知らないし調べてない」という弁解が通じないケースがあるのは押さえておくべきです。
広告出演契約書でも、出演する芸能人側が不祥事を起こした場合の契約解除や損害賠償などの条項のみならず、スポンサー側が不祥事を起こした場合の条項(芸能人側のイメージ低下による損害を填補するような条項)を入れることを検討したいところですが、このような条項をスポンサー側に飲ませられる芸能人(及び所属プロダクション)は限られるのかもしれません。
弁護士・杉浦健二
ソフトウェアやシステム開発などのITビジネスにおいて必須となる契約書作成からトラブル解決までを企業の社外法務部としてサポートしています。STORIA法律事務所共同代表。ブログ更新中。
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