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「“ログボの必然性”考えて」――「Fate/Grand Order」塩川洋介氏が抱く、クリエイター教育の課題(3/3 ページ)

» 2018年04月05日 06時00分 公開
[井上輝一ITmedia]
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大学で教えたい「なぜログボは必要なのか」

 大学という場で年間を通して学生に教える立場になる塩川さんだが、どんなことを伝えたいのか。

 「『なぜログインボーナス(ログボ)やホーム画面が必要なのか』ということを考えられるようになってほしい、そういった必然性を考えられる教育をしたい」と塩川さんは語る。

 「例えば、スマホ向けのソーシャルゲームはある程度のフォーマットができてきましたよね。そうなると、なぜそういう規格ができたかを考えずに『取りあえずログボは必要だろう』とか、『ログボはある前提で中身のことだけ考えよう』みたいな話になってしまいがちです」(塩川さん)

 「本当は何かが重要で何かがしたい、だからログボが重要だということを理解しなきゃいけないんですが、例えば教える側がとにかく就職させないといけないとなると、『取りあえずログボが必要なんだ』と教えちゃうこともあると思うんです。それは企業に就職するための教育という意味では間違っていないのかもしれませんが、ゲームを作るには『必然性』が求められることを理解してほしいのです」(同)

 塩川さんは「特に自分のような企画側は発注する立場の人間なので、説明責任と言いますか、『なぜこれが必要か』を作ってくれる人に説明できないとダメだと思うんです」と続ける。

「『なぜこれが必要か』を作ってくれる人に説明できないとダメだと思うんです」という塩川さん

 流行になんとなく乗せられるのではなく、「なぜこのボタンはここにあるのか」「なぜこのキャラはこのデザインなのか」といった、ゲームデザインの必然性を学んでほしいと塩川さんは言う。

今後の変化にゲームクリエイターがついていくために

 プレイステーション 3など家庭用ゲーム機の時代から、スマートフォンゲーム『FGO』、さらに『FGO』からスピンアウトしたVRドラマ『Fate/Grand Order VR feat.マシュ・キリエライト』やゲームセンターで遊べる『Fate/Grand Order Arcade』などと、さまざまなプラットフォームで企画を展開する塩川さん。今後のプラットフォームの変化についても「未来がどうなるかは予測できないが、どうなったとしても変わらないものもある」と考えている。

 「どの時代を見ても面白いことに、最終的には作り込みの勝負になるんです。『プレイステーション 2』の時代もそうでしたし、2010年ごろには欧米で『アイテム探し』のブラウザゲームが流行しました。マウスでクリックしてアイテムを見つけるようなゲームです。それもあっという間に動画を作ったりCGをリッチにしたりという方向に動いていきました。この動きはガラケーのゲームもそうでしたし、スマホゲームも今そうなっていて、基本的には正しい進化なんですよね」(塩川さん)

 「お金をかけてクオリティーを上げないと、お客さんが満足しない。結果参入障壁が上がってきて、IP(知的財産権)やお金を持っているところが勝負をしやすくなる。これの繰り返しがずっと各プラットフォームで行われてきていて、スマホもそのようになってきています」と塩川さんは言う。

 プラットフォームが今後変わっても、同じことが起こることは分かっていると塩川さんは分析している。資金やIP、ノウハウを持っていれば王者の戦い方ができるが、多くのクリエイターはそうではない。そんな時にゲームを作る人間としてどう勝負をするか。

 Unityなどミドルウェアの勉強も大事だとする一方で、流行に流されず、ゲームのコアとなる「デザインの必然性」を学ぶことこそ、これからのクリエイターがそうした今後のプラットフォーム上で戦っていく上で重要だと塩川さんは考えている。

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