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» 2018年04月06日 08時00分 公開

スマートスピーカーは人の会話を盗み聞きしている? 弁護士が利用規約を読んでみた「STORIA法律事務所」ブログ(2/2 ページ)

[柿沼太一,ITmedia]
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Alexaが会話を常時「聞いている」こと自体が問題なのか?

 以上をまとめますと(一部推測も入りますが)「Alexaは家庭内の全ての会話を聞いてはいるが、一部しか録音・クラウドへの送信をしていない」ということになります。

「全て聞かれていても一部しか録音・クラウドへの送信をしていないから問題ない」と考えるのか「全て聞かれていること自体が不気味」と考えるかは人それぞれでしょう。

 少なくとも利用規約上、音声入力の録音・クラウドへの送信範囲は明確ですので、法律上・契約上の問題はありません。そもそも「聞かれている」という表現自体が正確ではないかもしれませんね。「聞かれているから不気味」と感じるのは、「スピーカーの中に興味関心を持って人の会話を聞いている、人間的な何かがいる」ということを(無意識にではあれ)想定しているからのように思います。

 しかし、Alexaはあくまでソフトウェアですので、人間的な意味で「聞いて」いるわけではありません。単に「録音に備えて常時音声を取得している」ということに過ぎないんですけどね。

 ドライブレコーダーを「常時見ているから不気味」と感じる人はあまりいないと思いますが、Amazon Echoの場合、優れた音声認識と音声合成により、Amazon Echoの中に「人格」を見る人が多いのかもしれません。

Alexaはクラウド上に保持した会話を何のために使っているのか

 では、Alexaはクラウド上に保持した会話を何のために使っているのでしょうか。「AlexaおよびAlexa対応端末に関するFAQ」には以下の記載があります。

Alexaは、お客さまの音声録音および第三者サービスからの情報を含むその他の情報を、お客さまの質問に回答し、お客さまのリクエストに応え、かつお客さまのAlexaとのさまざあな体験およびAmazonのサービスを向上するために利用します。

 また、録音内容には個人情報を含んでいる場合もあります。個人情報については、取得者において利用目的を特定したうえ(個人情報保護法15条)で通知ないし公表する必要があります(同法18条1項)が、Amazonのプライバシーポリシーには利用目的として以下の記載がありますので、その目的の範囲内で利用されていると思われます。

ご注文の処理、商品の配送やサービス、支払方法の提供および支払いの処理、注文・商品・サービス・販売促進、お客さまのご要望への対応、お取引記録の更新およびお客さまのアカウントの一般的なメンテナンスのための連絡、ほしい物リスト、カスタマーレビューなどの表示、お客さまが興味をもたれると思われる商品・サービスのご案内、会員制プログラムの管理などの目的

 まあ、想定の範囲内といえば範囲内ですね。

Alexaが取得した音声入力データはどのような価値を持っているのか

 これで終わってはつまらないので、もう少し推測を進めてみます。利用者がAmazonに入力するデータ(検索、コンテンツの視聴、商品の購入など)は分解すると入力手段×入力内容となります。

 これまでは「文字(PCやスマホなど)×入力内容」だけだったのが「音声×入力内容」も加わったということです。これは単純に「データの入力手段が増えた」ということに止まらず、入力内容も変わり、そのデータとしての価値も変わったと言うことなのではないかと思います。

 簡単に言うと、「文字で入力されたデータ」と「音声で入力されたデータ」はその質・量共にかなりの違いがあるのではないでしょうか。

量が多い

 まず、単純に音声入力データの方が文字入力データよりも量が多くなる傾向にあると思われます。理由は簡単。音声入力の方が楽だからです。例えば、何か曲を流そうと思ったときになにかのデバイスを使って曲名などを文字入力するよりもAlexaに曲名を話しかける方が格段に楽です。何かを検索するときも同様です。我が家でもAlexaが来てから、家で音楽を聴く時間がとても増えました。

データの鮮度が高い

 また、音声入力の場合「思い立ったときにすぐ入力できる」という特性があります。

例えば、何かをAmazonで買おうと思った際、それほど緊急のものでなければ、手元にスマホがなければ「後で買おう」ということになります。つまり文字入力の場合、「買おうと思った時点」と「実際に購入行動を起こす時点」とではかなりの時間的間隔が空いている可能性があります。

 一方、音声入力の場合は「買おうと思った時点」と「実際に購入行動を起こす時点」とが非常に近接していることが多いと思われます。一般に、人が購入行動を起こす場合、「なにかのイベント(外界の出来事や内面での感情の動き)→購入意思発生→購入行動」という順番で行動しますが、マーケティング的には「どのようなイベントが、購入意思発生に結びついたのか」を知りたいはずです。それが分かれば、そのようなイベントを人為的に起こすことも出来ますし、あるいはコントロールできないイベント(天気など)であれば、そのイベントに合わせた広告を打つこともできるためです。

 その際、「購入意思発生時点」と「購入行動時点」の時間的間隔がかなり空いてしまっていると、どのようなイベントが購入意思発生に結びついたのかを推測しにくくなります。その意味で、音声入力によるデータは「鮮度が高く、マーケティング的な価値も高い」といことになるのではないでしょうか。

入力者の属性を広い範囲で取得できる

 音声入力の場合、当然Alexaとしては入力者の属性(性別、年齢など)を区別して認識しているはずです。これは、これまでの文字入力では不可能でした。どのような属性の入力者が文字を入力しているかは認識できなかったからです(当然ですが)。Amazonで、ある利用者が商品を購入したり検索したりした場合、それは当該利用者自身が欲しかったものなのか、あるいは家族のために購入・検索をしているのかの区別が出来なかった、ということです。

 しかし、音声入力では、一人一人の声を認識し、どのような商品をどのような属性の者が欲しがったり購入していたりするのか、という高精度なデータを取得することが可能となっています。例えば、昨日我が家のAlexaで再生された「美女と野獣」は私が聞きたかった曲ではなく、子どもが聞きたかった曲であることをAlexaは知っているはずです。

まとめ

  • Alexaは家庭内の全ての会話を聞いてはいるが、一部しか録音・クラウドへの送信をしていない。
  • 当該音声入力内容は、Alexaの性能向上目的及びAmazonの各種事業目的のために利用されている。
  • 音声入力によるデータは文字入力によるデータよりも格段に価値が高いのではないか。

著者プロフィール

弁護士・柿沼太一

弁護士・柿沼太一 

1973年生まれ。00年に弁護士資格取得後、著作権に関する事件を数多く取り扱って知識や経験を蓄積し、中小企業診断士の資格取得やコンサル経験を通じて企業経営に関するノウハウを身につける。13年に、あるベンチャーから案件依頼を受けたのをきっかけとしてベンチャー支援に積極的に取り組むようになり、現在ベンチャーや一般企業、著作権関係企業の顧客多数。STORIA法律事務所(ストーリア法律事務所)所属。ブログ更新中。

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