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シュアがフォノカートリッジ生産を終了へ

» 2018年05月01日 18時41分 公開
[芹澤隆徳ITmedia]

 米Shure(シュア)は5月1日、アナログレコードの再生に必要なカートリッジの生産を終了すると発表した。近年、アナログレコードの人気が再燃しているが、同社は「フォノグラフカートリッジ製品部門でシュアの厳しい基準を維持することが困難になっている」とし、「18年夏にフォノ製品の生産を終了する」という。

シュアのカートリッジ「M97xE」

 シュアがカートリッジ製造を始めたのは1937年。レコードの摩耗を抑えながら音質を求めた「needle-tilt原理」(ニードル・ティルト)と「trackability」(追跡性)をコンセプトにカートリッジ設計のパイオニアとして業界をリードした。60〜70年代にかけてピークを迎え、1日におよそ2万8000個のカートリッジを生産していたという。

店頭に置かれたカートリッジ販売用の什器(出典はシュア)

 80年代に入るとCDの普及により、カートリッジの需要は激減し、「88年までにはほぼ完全に失速」(同社)。しかし90年代の末ごろ、Shureはアジア圏で活動していたアメリカ人DJたちが絶版やオーバーストックになっていた同社製レコード針に飛びついていることを知り、生産を再開。現在、日本でもオーディオ用途の定番といわれる「M97xE」をはじめ、オーディオ向け3製品、DJ向け6製品を販売している。

 近年は世界的にアナログレコードの再評価が進み、2010年代前半からレコード販売数が急伸。日本レコード協会によると、17年の国内アナログレコード生産枚数は106万枚と、01年以来16年ぶりに100万枚を上回ったという。ソニー・ミュージックエンタテインメントは29年ぶりに自社生産を再開した。

 一見、好調に見えるこの時期に撤退を決めた理由について、シュアは詳細を明かしていない。ただし、「90年以上、最高の品質と信頼性、価値を持つ製品の製造販売に取り組んできたが、取り組みを続けるためには材料、製造工程、試験の一貫性はもちろん、需要の変動に対応する能力も求められる。近年、フォノグラフカートリッジ製品部門では、シュアの厳しい基準を維持することが困難になっており、その結果、コストや納入という点でシュアブランドへの期待に応えることができなくなってきた」としている。このよう状況を踏まえ、検討を重ねた結果、18年夏にカートリッジ生産を終了するという「苦渋の決断」に至ったという。

 「厳しさを増す状況の下で生産を続けるよりも部門を閉鎖することが、『Shureフォノ』の輝かしい歴史を守る上で最善の方法であるとの結論に達した」(シュア)

カートリッジはレコード針が拾った振動を電気信号に変換する、いわばレコードの心臓部(画像はイメージです)

 夏以降の製品供給についてシュア・ジャパンは、「各国で状況が異なるため、回答は難しい。個人で販売店に問い合わせるのが一番確実な手段になるのではないか」としている。

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