ITmedia NEWS >

100年先の世界を豊かにする挑戦 “実験区”「100BANCH」に潜入した(2/2 ページ)

» 2018年06月16日 08時00分 公開
[山本敦ITmedia]
前のページへ 1|2       

 ガレージプログラムへの参加はWebサイトなどで随時募集している。先述の参加条件に沿い、さまざまな分野のプロフェッショナルとして活躍する「メンター」と呼ばれるヒャクバンチのパートナーが厳選な審査を行う。本稿執筆時点で21名が名を連ねるメンターのうち、1人でも応募プロジェクトの内容が面白いと手を挙げれば審査通過となり、2階の「ガレージ」を3カ月間無償で使える権利が与えられる。

プロジェクトのメンバーが集い熱気にあふれる100BANCHのガレージ

 ガレージプログラムに参加すると、各業界のトップランナーであるメンターたちと定期的にコミュニケーションが取れるようになるのも魅力だ。「参加者たちの荒削りな姿のプロジェクトが、プロのアドバイスによってブラッシュアップされ、徐々に力を付けていったプロジェクトが既にヒャクバンチから巣立っています」と松井氏が語る。

 各プロジェクトメンバーが3カ月間の目標として何を掲げるかについても、基本的にはそれぞれの意志に委ねられる。目標はガレージプログラムに応募する際にメンターが評価する指標にもなる。参加者の中にはヒャクバンチの在籍期間中にメディアのWIREDが主催するアワードを受賞したり、構想を形にしてクラウドファンディングを成功させた例もあるそうだ。

今年の3月末に東京ビッグサイトで開催されたスタートアップの祭典に100BANCHがブースを出展。9チームの活動を紹介した

 則武氏は「ガレージプログラムに参加するプロジェクトのメンバーに、多様なネットワークを提供することにも私たちは力を入れています」と話す。メンターとのコミュニケーションだけでなく、時にはもの作りや資金集め、クラウドファンディングの仕掛け方など、ビジネスに関わる豊富な経験を持つエキスパートとの出会いがもたらされることもある。そして何より、同じヒャクバンチで日々切磋琢磨するプロジェクトの参加者同士の交流が、未来を作る力の源泉になることは間違いない。

 松井氏は、ガレージプログラムに参加するメンバーがそれぞれに取り組むプロジェクトの領域が異なっているため、互いにすれ違ったり衝突が起きたことは今までなかったと振り返る。「むしろ豊かな未来を築こうとする意志と情熱を共有するメンバーが不思議とヒャクバンチに集い、盛りたててくれています。今後もこの熱い状態をキープしていきたい」と松井氏は話す。

 18年に入ってからは、アメリカのオースティンで開催されたスタートアップやエンターテインメントコンテンツのイベント「SXSW」(サウス・バイ・サウスウエスト)や、都内で開催されたスタートアップのイベント「Slush Tokyo」にヒャクバンチとしてブースを出展した。「これらのイベントに参加する目的は、ヒャクバンチの活動を広く訴求するためだけでなく、ガレージプログラムなどの活動に参加するプロジェクトのアクセラレータとしても大事な意味を持っています」(則武氏)

 ヒャクバンチの運営にはパナソニックも関わっているが、参加するプロジェクト自体を同社の事業に直接的につなげることが目的ではないようだ。則武氏によれば、このヒャクバンチという場を活用して、今後パナソニックが実験的な試みを展開するという。

 筆者が今回の取材のためヒャクバンチを訪れた際には、ちょうどガレージプログラムの参加者たちによる月例の成果報告会が実施されていた。この成果報告会はガレージプログラムの応募説明会も兼ねているため、参加費無料で公開している。この日も3階のロフトで開催されたイベントはとても盛況で、登壇者のプレゼンテーションに熱心に耳を傾けている来場者の姿が印象に残った。

筆者がヒャクバンチを訪れた際には、ちょうどガレージプログラムの参加者たちによる月例の成果報告会が実施されていた。イベントは一般来場者のため開放されている

 また7月1日〜8日には創立から1周年を迎えるヒャクバンチの活動内容を紹介する「ナナナナ祭」が開かれる。取材に訪れたときは、まさに事務局の則武氏・松井氏らが中心となってヒャクバンチの活動を広く知ってもらうためのユニークなイベントの企画を練り上げている真っ最中だった。

 筆者はこれまでに北米や欧州、中国のスタートアップの最新事情をイベントなどを通じて取材してきたが、その成果と対比させてみると、改めて日本のもの作りやサービスの多くはまだ実績のある企業や団体が主体になって運営されており、スタートアップが育つ土壌や期待感が十分に育っていないということを強く感じていた。ヒャクバンチのように大胆、かつ「実験的」なスピリットを大事にしながら、旬なアイデアや人材を世界に送り出そうとする積極的な活動にもっと視線が注がれてほしいと思う。

 パナソニックがきっかけを作り、ヒャクバンチをともに運営する3社が、限りなくニュートラルな立場からスタートアップの活動を支援するというスタンスも興味深い。これからどんな化学反応が起きるのか注目したいと思う。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.