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一体、何がどうなった? ジャパンディスプレイ変貌の秘密

» 2018年08月22日 13時02分 公開
[芹澤隆徳ITmedia]

 中小型液晶パネル大手のジャパンディスプレイ(JDI)がコンシューマー向け製品やサービスの提供も含めた事業の多角化に舵を切った。8月1日の事業戦略発表会では、鏡の代わりに使えて液晶ディスプレイならではの機能を追加した「遅れ鏡」や、視線を動かさずに速度や位置情報などを確認できる「スマートヘルメット」など多彩なプロトタイプを披露。スマートフォン向け液晶パネルに依存している収益構造を変える考えだ。

「スマートヘルメット」を持つJDIの伊藤嘉明CMO

 JDIは、産業革新機構が主導してソニーや東芝、日立といった国内メーカーのディスプレイ事業を統合した“日の丸”パネルメーカー。しかしスマートフォンやポータブルゲーム機向けの中小型液晶パネルの売上が全体の6割を占め、スマホ需要に大きく左右される事業構造が実態だ。海外の競合メーカーも多く、東証の一部上場を果たして以来、4年間で一度も黒字を出していない。同じく産業革新機構が支援した半導体大手・ルネサスエレクトロニクスの好調ぶりとは対照的で、イノベーションをけん引するキーマンの不在を指摘する声も上がっていた。

 そんなJDIが変わったのは、デルやレノボの要職を歴任し、アクア(ハイアールアジアから社名変更)の前社長を務めた伊藤嘉明氏がCMO(チーフ・マーティング・オフィサー)兼常務執行役員として経営に参画してからだ。伊藤氏は、経済紙や金融アナリストも注目する「プロ経営者」の一人だ。

 アクアでは、旧三洋電機から継承した家電技術を生かし、持ち歩く洗濯機「COTON」(コトン)や「R2-D2型移動式冷蔵庫」などユニークな製品の開発をリード。三洋電機時代から15年も続いていた赤字をわずか2年で黒字に転換した。既にある技術やリソースを活用し、新しい収益源に変える手法が得意だ。

2015年10月のハイアールアジア(当時)発表会の様子。等身大(高さ95センチ)の「R2-D2型移動式冷蔵庫」などで注目を集めた

 伊藤氏はスピードを重視する。アクア時代も良い技術を見つけると即座に商品化を求め、同時に期限を設定するアグレッシブな手法で社員たちを驚かせていた。JDIでも2017年10月から半年をかけて全拠点を見てまわり、18年4月に入った途端、全社に向け「100日間で何ができるか」とぶち上げたという。

 社内公募で人を集め、新規事業開発を推進する「マーケティング・イノベーション&コミュニケーション戦略統括部」を立ち上げた。「エンジニアだけではありません。部材の調達部門や経理など、さまざまな部署から70〜80人が応募し、30人に絞られました」と話すのは、同部で「ライトフィールドディスプレイ」を担当している山本尚弘課長。山本氏は中国のスマートフォンメーカー向けに液晶パネルを販売する部署でマーケティングマネジャーを務めていた。

 「液晶パネル販売では、客となるスマホメーカーが要求書を出してきますが、今は全てを自分たちで考えなければなりません。まったく勝手が違います」(山本氏)

事業戦略説明会「JDI Future Trip」で紹介されたライトフィールドディスプレイ。特別なメガネなしでキャラクターが立体的に見える

 経験のない事業でも期限を設け、成果を出すことが求められた。JDIが8月1日に開催した事業戦略発表会「JDI Future Trip」に「First 100 Days」という副題が付いていたのは、4月から3カ月余りの成果を発表する場であったからだ。4月中旬に異動した山本氏は、8月1日に間に合うようライトフィールドディスプレイの試作機を製作する。

 NHKメディアテクノロジーと共同開発したライトフィールドディスプレイは、スマートフォン用の5.5インチUXGA液晶パネルと、パネルメーカーならではのマイクロメートル精度のガラス貼り合わせ技術を活用し、光線再生型(ライトフィールド方式)の裸眼立体視を実現した卓上型のディスプレイだ。ゲームやアニメのIP(知的財産)を持つ企業と協力し、人気キャラクターと会話を楽しめるエンターテインメント用途に展開するという。将来的に追加アイテムの配信など課金ビジネスへの参入も視野に入れる。

JDIとNHKメディアテクノロジーによるライトフィールドディスプレイの開発陣。右端が山本尚弘課長

 純粋なB2Bの会社だったJDIが、B2C(一般消費者向け)の製品やサービスの開発に乗り出した。目標は、21年をめどに全売上に占めるスマートフォン用液晶パネルの割合を5割まで引き下げること。

 実は、JDIでは既に「次の100日間」が始まっていた。報道関係者に向け、12月に2回目のJDI Future Tripを開催すると告知済み。各プロジェクトメンバーは、それまでに製品の完成度を上げ、ビジネスモデルのブラッシュアップをしなければならない。成果はメディアを通じて公表されるため、大きなプレッシャーとなる。

 それでも関係者の顔は一様に明るい。「伊藤(CMO)は、イノベーションを推し進める上で重要なのは、“できる、できない”ではなく、“やるか、やらないか”だと言いました。そしてわれわれは“やる”を選択したんです」(山本氏)

【訂正:2018年8月30日更新 ※一部社名の誤りを修正しました】

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