ITmedia NEWS > ネットの話題 >

「口コミで戦うしかなかった」 「カメラを止めるな!」上田監督の“SNS戦術”(3/3 ページ)

» 2018年08月31日 08時00分 公開
[片渕陽平ITmedia]
前のページへ 1|2|3       
photo 映画レビューサービス「Filmarks」を運営する「つみき」の鈴木貴幸社長

 国内最大級の映画レビューアプリ「Filmarks」(フィルマークス)を運営する「つみき」(東京都目黒区)の鈴木貴幸社長は「『全米が泣いた』という宣伝文句は、もしかすると伝わりにくい表現になったかもしれない。SNS上の友人が『泣いた』と投稿しているのを見るほうが、より効果があるのではないか」と指摘する。

 「(SNSのユーザーは)面白い作品は友人に伝えようとするが、いまいちだった作品はあまり話題にしない。期待を裏切られたり、さほど面白くなかったりすれば、低い評価を投稿する場合もある」(鈴木氏)。そうした傾向は、Filmarksでも見られるという。フォローしている知人の映画レビューが表示される仕組みになっているためだ。

 「最初にそんな傾向を感じたのは『この世界の片隅に』(2016年公開)。『君の名は。』(16年公開)も、宣伝の効果以上に口コミで人気が加速した例だった。『カメラを止めるな!』も似ているパターンだ」(鈴木氏)

 ただ、そうした中でも、カメラを止めるな!は特殊なケースという。「君の名は。」「シン・ゴジラ」(16年公開)と比較すると、いずれも公開翌日から1日当たりの「Clip!」の総数(Clip!は、Filmarks内で『見たい』映画を登録する機能)が急激に増えているが、君の名は。やシン・ゴジラといったヒット作でも、直後にはピークを迎え、徐々に下がっている。しかしカメラを止めるな!は、公開後も右肩上がりでじわじわと数字を伸ばし、約1カ月後に“山”ができた。

photo 公開日前後の1日当たりのClip!数の遷移=Filmarksのデータを基に編集部が作成
photo 公開日前後のClip!数の累計=Filmarksのデータを基に編集部が作成

 「君の名は。は、公開前の時点で1万以上、Clip!が付いていた。(ユーザーが)Clip!を付けていると、公開当日にプッシュ通知が届く仕組みになっているので、その点ではアドバンテージがあった。カメラを止めるな!は、公開前のClip!が1000くらいだったが、追い付いてきている」(鈴木氏)

 鈴木氏は「(これまでは、公開前の宣伝効果によって)初日の“山”をできるだけ高くすれば、そこから落ちても効果は大きいという考えがあった」と話す。しかし、カメラを止めるな!のように、しり上がりで伸びた例を踏まえると、「たとえ公開前の注目度が低くても、良質な作品であれば口コミで広がり、長く愛される状況が生まれやすくなっていると感じる」と指摘する。劇場公開が終了しても、動画配信サービスなどで提供が始まれば、勢いが衰えない可能性もあるという。

 「最初の話題作りだけでは、新しい作品に注目が移っていくために“二度と拾われない”作品になる可能性がある。(こうした傾向を受けて)映画業界では『宣伝よりも作品の質』に予算がシフトするのではないか」(鈴木氏)

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.