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改正著作権法が日本のAI開発を加速するワケ 弁護士が解説「STORIA法律事務所」ブログ(6/7 ページ)

» 2018年09月06日 08時00分 公開
[柿沼太一ITmedia]

著作権法の構造

1:著作権法が前提としている「著作物の経済的価値」や「権利者の利益」とはなにか

 そもそも著作物の経済的価値はどこにあるのでしょうか。

人は何を期待して著作物にお金を払うのか、ということです。

まず、著作物の視聴者が著作物を「見て楽しむ」「聞いて楽しむ」ためにお金を支払う、つまり「著作物の視聴者が当該著作物を視聴して満足することと引き換えに支払う対価」が「著作物の経済的価値」に該当することは言うまでもありません。

 ただ、実は「著作物を視聴して満足する」以外にも著作物が持っている経済的価値はあります。

 例えば、「情報解析のために著作物を利用する」「技術開発のために著作物を利用する」「情報通信設備のバックエンドで著作物を利用する」「AI開発のために著作物を利用する」「サイバーセキュリティソフト確保のためにソフトウェアをリバースエンジニアリングする」などに対して利用者が支払う対価も、「著作物の経済的価値」です。

 もっとも、これら複数の「著作物の経済的価値」のうち、著作権法が保護しようとしているのは「著作物の視聴者が当該著作物を視聴して満足することと引き換えに支払う対価」という部分だけです。

 この点について、2017年報告書41頁では「視聴者が著作物に表現された思想又は感情を享受することによる知的又は精神的欲求の充足という効用の獲得を期待して,著作物の視聴のために支払う対価が著作物の経済的価値を基礎付ける」としています。

 つまり「著作物の本来的利用」とは「著作物に表現された思想・感情の享受」を意味し、「権利者の利益」とは、「視聴者が著作物の視聴のために支払う対価」を意味するのです。

2:「著作権」とはなにか

 そして、著作権法はこの「著作物の経済的価値」を著作権者に与えるために、著作権者に「著作権」、具体的には「複製権」「上演権」「公衆送信権」などの権利を与えています。

 これは、著作物を、「著作権者から著作物の受領者に届ける流通過程をコントロールする権利」と言い換えてもいいでしょう。

 著作権者の下で発生した著作物が、遠く離れた場所にいる(隣にいる人でもいいのですが)受領者に届くまでには「複製」や「上演」「公衆送信」などの各種の流通行為が必要です。

「著作権」というのは、その流通行為を著作権者がコントロールすることができる権利なのです。

3:著作権法が著作権の対象としている行為

 簡単な図で示すとこのようになります。

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 まず、1で著作者が著作物を創作します。その上で2で著作物が流通し、3で当該著作物を受領者が受領します。そして、4で受領者は当該著作物を視聴することで満足するということになります。

 著作権法が保護の対象としている「流通行為(複製・上演等)」、言い換えれば「著作物の本来的利用」に向けられている「流通行為(複製・上演等)」は、この「視聴に向けられた流通行為(複製・上演等)」ということになります(上記図の赤枠)。

4:著作権法が著作権の対象としていない行為

 一方で、先ほど述べたように著作物には「著作物を視聴して満足する」以外にも著作物が持っている経済的価値はあります。

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 ただ、その経済的価値は著作権法が前提としているものではありません。

 そうすると、「著作物を視聴して満足する」ことを前提としていない、つまり「著作物の本来的利用」に向けられていない流通行為(複製・上演等)については、著作権法の保護の対象ではないということになります。つまり下記図の青枠部分は著作権法では保護されません。

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 このような考え方が権利制限規定のうち「著作物の本来的利用には該当せず、権利者の利益を通常害さないと評価できる行為類型(第1層)の背景にあるのです。

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