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改正著作権法が日本のAI開発を加速するワケ 弁護士が解説「STORIA法律事務所」ブログ(7/7 ページ)

» 2018年09月06日 08時00分 公開
[柿沼太一ITmedia]
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まとめ

 長くなりました。

 問題は新30条の4本文但書の「ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」とは具体的にはどのようなケースなのかということでした。

 そこでは「著作権者の利益」という文言が使われています。

 そして、この「著作権者の利益」というのは、先ほど説明したような著作権法の構造や「第1層」の権利制限規定の趣旨からすると「著作物の受領者が当該著作物を視聴して満足することと引き換えに支払う対価を得る機会が確保されること」ということになります。

 つまり「当該著作物の受領者が当該著作物を視聴して満足する」ような「種類・用途・利用態様」による利用こそが、この但書に当たるということになります。

 もっとも、新30条の4はそもそも「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」を類型化したものですから、同本文の要件をクリアすれば、この但書は原則として適用されないということになります。

 例外的に但書が適用されるケースとして、例えば「●●風キャラクター生成モデル用学習用データセット」と銘打って特定の作家の全漫画を単にデジタル化しただけのデータセットを販売するようなケースが考えられます。

 このケースは確かに学習済みモデル生成用の学習用データセットとして使おうと思えば使える(ただし自分でラベル付などは行わなければなりませんが)データセットですので、本文2号「情報解析」には該当しますが、このデータは、そのまま視聴して楽しむことも十分に可能です。とすると、但書に該当することになると思われます。

まとめ

  • 機械学習のために他人の著作物を利用する行為は、同一事業者がモデル生成まで一気通貫に行う場合には、現行著作権法47条の7により適法
  • ただし、「自らモデル生成を行うのではなく、モデル生成を行う他人のために学習用データセットを作成して不特定多数の第三者に販売したりWeb上で公開する行為」「自らモデル生成をするために学習用データセットを作成し、これを用いてモデルを生成した事業者が、使用済みの当該学習用データセットを不特定多数の第三者に販売したりWeb上で無償公開する行為」「特定の事業者で構成されるコンソーシアム内で、学習用データセットを共有する行為」は現47条の7の適用がなく著作権侵害に該当する。
  • 2019年1月1日施行の改正著作権法30条の4の下では、先ほどの3つのパターンがいずれも適法となる。
  • 実務的には新30条の4但書がどのような場合かが大きな問題になると思われるが「当該著作物の受領者が当該著作物を視聴して満足する」ような「種類・用途・利用態様」による利用でなければ同本文但書には該当しないため、本文の要件をクリアすれば、この但書は原則として適用されないということになると思われる。

著者プロフィール

弁護士・柿沼太一

弁護士・柿沼太一 

1973年生まれ。00年に弁護士資格取得後、著作権に関する事件を数多く取り扱って知識や経験を蓄積し、中小企業診断士の資格取得やコンサル経験を通じて企業経営に関するノウハウを身につける。13年に、あるベンチャーから案件依頼を受けたのをきっかけとしてベンチャー支援に積極的に取り組むようになり、現在ベンチャーや一般企業、著作権関係企業の顧客多数。STORIA法律事務所(ストーリア法律事務所)所属。ブログ更新中。

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