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改正著作権法が日本のAI開発を加速するワケ 弁護士が解説「STORIA法律事務所」ブログ(4/7 ページ)

» 2018年09月06日 08時00分 公開
[柿沼太一ITmedia]

1:自らモデル生成を行うのではなく、モデル生成を行う他人のために学習用データセットを作成して不特定多数の第三者に販売したりWeb上で公開する行為

例:Web上あるいは権利者から公衆に提供されている大量の画像データを複製して、画像認識用モデル生成のための学習用データセットを作成して販売するケース

2:自らモデル生成をするために学習用データセットを作成し、これを用いてモデルを生成した事業者が、使用済みの当該学習用データセットを不特定多数の第三者に販売したりWeb上で無償公開する行為

例:画像生成用モデルを生成した事業者が同モデル生成に利用した学習用データセットとモデルをセットにして販売するケース

3:特定の事業者で構成されるコンソーシアム内で、学習用データセットを共有する行為

例:深層学習を利用した自動翻訳エンジンを生成する事業者が、Web上の自然言語データを大量に収集して生成した対訳コーパスを、事業者団体内部で相互に共有するケース

 なお、1と2のケースについては、「特定の第三者に対して譲渡する行為」であれば適法である可能性もあるのですが、どこまでが「特定の第三者」に該当するかについては、その範囲を非常に狭く解釈した裁判例もあり、確立した見解がありませんでした。

 この問題点については、知財戦略本部の「新たな情報財検討委員会報告書」(平成29年3月)や、2017年報告書でも指摘されており、その対応の必要性が共有されていました。

改正著作権法30条の4

どう変わるのか

 このような問題意識の下、現47条の7は、柔軟化・拡充され、新30条の4第2号となりました。

 早速条文を見てみましょう。

第三十条の四

著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

(中略)

二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合

(以下略)

 現47条の7から新30条の4第2号への主要な改正点についてまとめたのが以下の表です。

AI

 これにより、先ほど「現47条の7が適用されず違法となる行為」として紹介した3つの行為にはいずれも新30条の4が適用され、適法になります。

 なお、新47条の5第1項2号では「電子計算機による情報解析とその結果提供」が定められています。

 従って、データセットを生成して公衆に販売するビジネスを行う際に、当該データセット内に含まれている著作物を一定限度で利用する行為(例えば販売サイトにデータのごく一部を掲載する行為など)も許容されることになります。

 ただ、ここで許容されている利用行為は「軽微利用」(「当該公衆提供提示著作物のうちその利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なもの」)に限られているので、無制限に著作物が利用できるわけではありません。

改正著作権法施行後、実務で問題になることが確実な論点

 このように、新30条の4によって、2019年1月1日以降は、学習用データセットの公衆提供・譲渡が可能になります。

 その後、実務的に論点になるのは、同条本文但書の「ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」とは具体的にはどのようなケースなのか、ということだと思われます。

 まず、以下の2つは確実です。

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