ITmedia NEWS > AI+ >
ITmedia AI+ AI活用のいまが分かる

なぜ日本は人工知能研究で世界に勝てないか 東大・松尾豊さんが語る“根本的な原因”これからのAIの話をしよう(日本編)(2/4 ページ)

» 2018年09月18日 08時00分 公開
[松本健太郎ITmedia]

――8月31日放送の「朝まで生テレビ!」は、人工知能がテーマでした。番組内で松尾さんは「日本も若手研究者は優秀だが、社会が彼らに裁量を与えていないことが問題だ」と主張されていました。

AI 朝まで生テレビ!」公式サイトより

 日本には「イノベーションが起こらない」と悩んでいる経営者や管理職がいっぱいいますが、若手に任せてみれば良いんですよ。変な失敗もいっぱいするでしょうけど、行動は起こします。

 若手の中には、頭が良くて先を読むのがうまい人がいっぱいいる。昔は松下幸之助、井深大、盛田昭夫、本田宗一郎などの実業家が、いろいろありながらも乗り越えてきたのに、なぜ今は同じような年齢の人たちが動けないのか。

――日本は、人工知能を使って稼ぐ、もうけるという意識が他国に比べて低いのでしょうか。

 資本主義の世の中ですから、食わなきゃ殺されるんです。強いやつが生き残って弱いやつが死ぬ。そうしたルールで世界中の人たちが戦っているのを、日本人が全く感じていませんよね。いざ殺されそうになると、「フェアじゃない」「社会が悪い」と言い出してしまう。

 こうした意識は、第二次世界大戦の敗戦から立ち上がった当時の日本も痛感したはずなんです。でも、高度経済成長を経て先進国の仲間入りを果たし、いつの間にか社会が守ってくれると勘違いしちゃったのかもしれませんね。

だらしない大企業 ベンチャー企業はチャンス

――そうした「日本人が持つ危機感のなさ」について、どう考えればいいのでしょうか。

 特に大企業の動きに対して思うところはありますが、この話は国家、企業、個人に分けて考えた方がいいでしょう。

 国家レベルではこの数年間、僕なりにいろいろと努力してきましたが、かなり限界を感じており、なかなかいい方向に向かうのは難しいと思っています。

 しかし、企業レベルではまだやりようがあり、大企業はやり方によって大きな可能性があります。ところが、現状は大企業できちんと動けているところはごく少数です。大企業がだらしないから、ベンチャー企業はさまざまなチャンスに恵まれている。大企業がまともに動いていたら、ベンチャーが入る余地はありませんから。

 個人レベルでも、周りがおかしな動きをしていればしているほど、まともに動ける人はそれだけでバリューが出せます。今の時代は、技術を使ってどのようなバリューを提供できるか考え、先読みして動けるプレイヤーが強いです。

――大企業がうまく動けないのはなぜでしょうか。上層部が人工知能を正しく理解していない、全体的に勉強不足、といった声もありますが。

 まぁ、そうなんですけど、そこはもういいんじゃないですかね(笑)

 もちろん、大企業の上層部も国全体も、もっと技術を勉強した方がいいです。中国は全員が試験勉強中みたいな状態ですが、日本は勉強しませんよね。今持っている知識から1歩先、2歩先になってしまうと、もう分からない。勉強すれば理解できるのに、それをしない。普通に考えると勝てるわけないですよね。

 今は「自動車の仕組みを知らないのに、自動車立国になろう!」と言っているようなものですよ。「油で走るらしい」くらいの理解では立国は無理です。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.