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なぜ日本は人工知能研究で世界に勝てないか 東大・松尾豊さんが語る“根本的な原因”これからのAIの話をしよう(日本編)(4/4 ページ)

» 2018年09月18日 08時00分 公開
[松本健太郎ITmedia]
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――日本のAI系スタートアップの中には「日本も技術力は負けてない」と自負する声もあります。しかし、世界的に見ると日本はあまり存在感を出せていないようです。国際会議で論文を発表することなどは存在感を高めるのに重要なのでしょうか。

 確かに論文は重要ですが、数だけでなくその内容も大事です。数でいえば、10年以上前から、情報系のトップ国際会議での日本からの論文の採択数は、分野にもよりますがおおむね5%くらいで、それが今では2〜3%にまで下がっていると思います。また、ヒントン先生やヨシュア・ベンジオ先生やその周りの人たちは、インパクトの強いテーマの論文を出し、多数の引用も得て、海外で存在感を示しています。

 もう一つ重要なことは、15年くらい前からビジネスの世界で勝った企業がアカデミックの世界でも勝つという因果関係になってきていることです。鶏と卵ではない。ビジネスで勝った企業が、良い人を集め、良い論文を出している。

 だから論文が少ないのは結果に過ぎなくて、ビジネスで負けているのが一番大きな問題でしょう。

大企業が挑戦しない理由

AI インタビュアーの松本健太郎さん

――日本国内における人工知能の歴史を振り返ってみて、あのタイミングで違った行動を取っていれば、少しは今の歴史が変わったのではないかと思うターニングポイントのようなものはありますか?

 国内でも、良い研究者がいっぱいいて、画像認識領域で世界に存在感を示していた企業はあります。ですが、ディープラーニングが出てきたタイミングで拒否反応が出て、苦戦しています。インターネットが出てきたときに、通信業界の人が「(パケット伝送を保証しない)ネットの仕組みは信頼できない」と拒否反応を示したのと一緒です(参考記事:@IT)。

――なぜディープラーニングという新しい技術が登場したときに、「面白そうなものが出てきた」と取り入れなかったのでしょうか。

 研究者って、自分のやってきた研究や業績を壊されるのが嫌なんですよね。だから新しい技術が出てきたときにどうしても拒否反応を起こしてしまう。

 保身もあります。若い人は守るものがないので、新しい技術を柔軟に取り入れますが、立場があればあるほど保身に走ってしまう。それは経営者にしても同じでしょう。日本の経営は短期のP/L(損益計算書)を気にするので、新しい挑戦をしたがりません。

 この20年間で、日本の技術者は自信を失っていると思います。成功体験をしていないので、新しい技術を見たときに、これを使って大きな事業を起こしてやるんだという発想が湧いていないように感じます。

ディープラーニングは汎用技術

――目の前のことを優先してしまい、ディープラーニングという技術的な大きな変化を捉えられなかった。

 ディープラーニングはGPT(general purpose technology、汎用技術)と言ってよいと思っていて、インターネットやトランジスタと同じように大きな変革をもたらす技術だと思います。汎用技術ですから、ほぼ全産業に影響を及ぼします。その一大イベント感が捉えられていない気がしますね。

 画像認識で何ができるかを考えれば、医療、農業、飲食、介護などさまざまな分野に応用できることが分かります。自動車や産業用ロボットなど日本が得意とするものづくりの分野と、ディープラーニングの「目」の技術を組み合わせることで、世界と戦えるのではないでしょうか。

(後編に続く。近日公開)

著者プロフィール:松本健太郎

株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。

著者連絡先はこちら→kentaro.matsumoto@decom.org


編集部より:著者単行本発売のお知らせ

人工知能に仕事を“奪われる”、人工知能が“暴走する”、人工知能に自我が“芽生える”――そんなよくありがちな議論を切り口に、人工知能の現状を解説してきた連載「真説・人工知能に関する12の誤解」が、このたび、書籍「AIは人間の仕事を奪うのか? 〜人工知能を理解する7つの問題」として、C&R研究所から発売されました。

連載を再編集し、働き方、ビジネス、政府の役割、法律、倫理、教育、社会という7つの観点から、人工知能を取り巻く問題を理解できる構成に仕上げています。この本を読めば、人工知能の“今”が大体分かる――連載を読んでいた方も、読んでいなかった方も手に取っていただければ幸いです。本書の詳細はこちらから。

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