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なぜ日本は人工知能研究で世界に勝てないか 東大・松尾豊さんが語る“根本的な原因”これからのAIの話をしよう(日本編)(3/4 ページ)

» 2018年09月18日 08時00分 公開
[松本健太郎ITmedia]

――AIを理解している研究者や技術者と、よく分かっていない官僚、経営者、管理職という分断が起きている。

 そういう状況で困っているベンチャー企業は、たくさんいると思いますよ。「AIはブラックボックスだから怖い」と言う人がいますが、僕からすると「ブラックボックスの意味分かってますか?」と言いたい。数式はちゃんと出ていて、数式の意味が解釈できないということなのですが、そこも勘違いしている人がいます。

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 今の日本を取り巻く状況を考えると、きちんとアービトラージ(裁定取引、サヤ取り)のゲームをすべきだと思います。日本は後進国化しつつあって、基本的には単独で問題解決できない構造になっている。それを他のプレイヤーが悪いからだと言っても仕方ないです。

 本来やるべきことをできていないので、自分自身で人や知識、技術をつなぎ、全体としてのバリューチェーンを作っていく活動を日本中でやれば、経済全体が少しずつ良くなっていくでしょう。繰り返しになりますが、大企業がトンチンカンな行動をしているうちは、率先して動くベンチャー企業が勝てるんです。

 大企業が動けるようになれば、アービトラージのギャップが埋まってきたということですから、残念ながらベンチャー企業は勝てなくなってしまう。でも、それは全体から見れば良いことです。

 僕は若い人は本当に優秀だと思っていて、「教育を受けてみんな頑張れ!」と言っていますが、こうした若手育成もみんながまだ理解していないから成り立っています。

 その大切さを理解すれば、みんなが率先して若い人を教育し、育てた人材を獲得しようとする。それだと僕は得しないですが(笑)、それは社会として良いことでしょう。

――行政の政策や大企業の動きの遅さに対する不満を述べるより、自ら手を動かすべきだと。

 そうです。よく大企業向けに講演もしますが、「話してもどうせ行動しないだろうな」という気持ちもあります(笑)。一体いつまで僕の初歩的な話を聞いてるのだろうと。

人材獲得競争は「2013年に勝負はついていた」

――先ほどから出ている「人工開発」には2種類あると思っていて、1つはTensorflowのような人工知能を開発するためのソフトウェアライブラリの開発、もう一つはそうしたライブラリ群を利用した製品・サービスの開発です。それぞれ日本が勝つのは難しいでしょうか。

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 ライブラリ開発での勝ち負けを競っても、あまり意味がないんじゃないでしょうか。

 例えば、Googleは公開してはいけない仕組みは絶対に公開しません。検索アルゴリズムなどはGoogleの中でも限られた一部の人間しか知りません。

 でも、競争上の差別化にならない場合、あるいは広げていくことが重要な場合には公開するんですよ。だからGoogleがTensorflowを出したのは、そこが勝負ポイントじゃないと思っているからでしょう。

――Googleには今でもAI人材が集まっています。日本は人材獲得の点でも負けているということでしょうか?

 Tensorflowを公開する前の2013年にはニューラルネットワークの研究者であるトロント大学のジェフリー・ヒントン教授の会社を買収しました。その後、デミス・ハサビスさんが創業したAI企業DeepMindを買収し、17年にはデータサイエンティスト向けコミュニティーKaggleを買収しました。Facebookもニューラルネットワーク研究者のヤン・ルカンさんを招聘(しょうへい)し、人工知能研究ラボのトップに据えています

 実際のところ、もうその時点で人工知能を巡る人材獲得の勝負はついています。そこから人がどんどん集まっていきましたね。

 シリコンバレーで起業し、成功した日本人はいるでしょうか? 日本のどこかの企業が、グローバルで通用するプラットフォームを提供できているでしょうか?

 それと同じように、人工知能の技術開発の人材でも、ディープラーニングに関する研究・開発では米中が完全に上を行っています。個人でそこそこ戦っている人はいらっしゃるのですが、孤軍奮闘と言ってもいいでしょう。

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