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» 2018年11月30日 14時57分 公開

ロボ材活用最前線――AIが変える働き方と経営:「ロボットの人間らしさ」を追求する (3/3)

[小林啓倫,ITmedia]
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詩人がロボットの先生になる時代

 したがっていま企業に求められるのは、ロボットやAIだからといって「人間らしさ」を諦めたり、処理能力が速いといった機械ならではの長所のみを追求するのではなく、感情面への配慮も進めるということになります。

 実際に前述のバクスターの場合、事前に米国とインドという文化的な差のある2つの地域で調査を行い、49種類の表情すべてについて、被験者が同じ解釈を示すことを確認したそうです。AIを顧客に直接対面させ、やり取りを行わせようと考える企業は、少なくともこうした「異なる文化で予期せぬ反応を引き起こすことがないか」という確認を実施することが求められるでしょう。

 さらに先進的な企業では、より積極的で、ユニークなアプローチでこの目標を達成しようとしているところがあります。

 有名なのが、マイクロソフトの音声アシスタント「コルタナ(Cortana)」です。同社はコルタナの「人格」をつくり上げるために、脚本家として活動した経験のあるジョナサン・フォスターを採用しています。現在同社で「プリンシパル・コンテンツ・エクスペリエンス・マネジャー」を務めているフォスターですが、大学では歴史学を専攻しており、テレビや映画の脚本を手掛けたこともある人物。マイクロソフトは彼を、脚本家や小説家、詩人、さらには童話作家など、世界中から集められた文章のプロ22人から成るチームのトップに据え、「コルタナがどんな受け答えをすべきか」を考えさせました。

 面白いところでは、「コルタナに好きな映画を答えさせるべきかどうか」まで議論し、最終的に「スター・トレック」と答えさせる決断を下したことが挙げられます。それが正解かどうかは賛否両論あると思いますが、コルタナに「人格」を感じさせるのに大きく役立っていることに異論の余地はないでしょう。

 他にもAIを活用するIT企業で、フォスターのような脚本家や作家、詩人などをAI教育係に採用するところが出てきています。次の映像は、Intelligent Digital Avatars社が開発したバーチャルナース「SophieCare」のデモです。

 これはスマートフォン/タブレット用のアプリで、IBMのWatsonを活用し、患者とのやり取りを分析して彼らの健康状態を把握するというものです。映像や音声から病気の兆候を把握するという試みは既に数多く取り組まれていますが、SophieCareでは「ソフィー」という人格を用意することで、よりスムーズに患者とのコミュニケーションが進むように工夫しています。また薬の定期的な服用を促すなど、単に患者の状態を探るだけでなく、彼らに望ましい行動を取ってもらうためにも役立てられています。

 この「ソフィー」の人格をつくり上げたのは、ハリウッドで脚本家として活動していたロビン・ユーイング。彼女もテクノロジー系のバックグラウンドを持っていたわけではなく、アイオワ大学で脚本を学んでいます。彼女は通常の脚本と同様に、たとえ実際に使う部分がなかったとしても、ソフィーの「バックストーリー(生い立ち)」を考えるところまで取り組んだのだとか。「フィクションの中に本物らしさを感じさせる」という点で、映画やテレビの脚本も顧客に接するAIも一緒であり、それだけにフィクションを作り上げる手法が活用できるのでしょう。

 大手IT企業やスタートアップが、詩人や小説家を積極的に採用する。冗談のように感じられるかもしれませんが、感情コンピューティングやそれがもたらすメリットを考えれば、情動面でもロボットを「教育」することが理にかなった話であると理解できるのではないでしょうか。本格的なAI時代が到来したとき、企業はIT系の技術者だけでなく、人文系のスペシャリストも抱えるようになっているかもしれません。

著者プロフィール:小林啓倫(こばやし あきひと)

経営コンサルタント。1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米Babson CollegeにてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』(ダン・アッカーマン著、白揚社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP社)『HUMAN+MACHINE 人間+マシン: AI時代の8つの融合スキル』(ポール・R・ドーアティ、H・ジェームズ・ウィルソン著、東洋経済新報社)など多数。


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