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「自動さぶちゃん」の時代は来るか 「5G普及後の未来」を考える(1/2 ページ)

» 2018年12月10日 11時13分 公開
[小寺信良ITmedia]

 先日、総務省情報通信審議会にて、「10年後を見据えたネットワークビジョン」についてヒアリングの依頼があったので、行ってきた。他は通信、サービス、インフラ事業者ばかりで、消費者団体は、筆者が代表理事を務めるインターネットユーザー協会(MIAU)だけということだったので、よそとは違う消費者目線での課題や懸念点をいろいろ考えて発表してきたところである。

この記事について

この記事は、毎週金曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2018年11月30日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額648円・税込)の申し込みはこちらから


 正式な提出資料はここにあるが、7つのポイントを掲げてみた。

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 今回はこのうち、主要ポイントをもうちょっとわかりやすくかみ砕いてみたい。

 10年後を見据えた、というが、実際のテーマとなるのは、5Gが普及すると世の中はどのようになるのか、という話である。米国では今年後半から、日本では2019年から段階的に5Gサービスが提供されると聞いている。

 5Gのポイントは、高速・大容量であることばかりに注目されがちだが、それ以外にも遅延が少ないなどの利点がある。一方で周波数が高くなるため、電波の状態で遠くまでは伝送できず、4Gよりも基地局を多く作らないと、「穴」ができてしまうことが懸念されている。

 ただでさえキャリアには通信料とスマホ料金の分離が求められており、締め付けが厳しくなっている最中に5Gへの投資を迫られることになり、4Gのようなスピード感で普及が進むのか、難しいところにさしかかっている。そんな中で、如実な地域格差が発生しないように調整していく必要がある。

自動運転について

 5Gの普及に伴って期待が大きいのは、自動運転である。遅延の少なさから、車載センサーの情報をクラウドで分析、即時運転へ反映させるなど、ローカルからクラウドへ処理を分散させることでより低コストな自動運転車の実現が可能になる。

 現在、自動運転のビジョンとして描かれるのは、都市部における公共インフラとしての自動運転車だが、自動運転の普及によって恩恵を受けやすいのは、むしろ高齢者が住まう地方の町村地域であろう。現状過疎化が進む農村地域では、日用品や食材の購入や調達等、物流も不便になりつつある。

 こんな地域にこそ必要なのが、「自動さぶちゃん」である。さぶちゃんとはサザエさんでお勝手口に注文を取りに来る三河屋の店員さんだ。筆者が小さい頃、どういうわけか今は一家惨殺事件で有名になってしまった高千穂町に住んでいたことがある。元々山岳地帯ではあるのだが、当時住んでいた社宅は山の上にあり、当時自動車もあまり普及していなかったことから、本当に勝手口まで「御用聞き」が2-3日に1度訪れて来たものだった。

 自動運転車は、現代の「御用聞きシステム」として開花する可能性がある。ネットで注文したものを自動運転車が届けてくれるというわけだ。ドローンにも一定の可能性はあるが、重いものは運べない。米10kg、ビール1ケースといったオーダーは、自動運転車が担うべきだろう。

 ところがキャリアによるインフラ整備は、過去の例からすれば都市部から先にスタートし、地方の町村地域まで普及するのに数年を要するのが通例である。加えて携帯料金の値下げ圧力が加われば、ますます地方部へのインフラ整備は遅れるだろう。しかも4Gよりも沢山の基地局が必要になる。過疎地域にまんべんなく5G網を張ってもコストがあわないとして、4Gもしくは3Gのままで据え置き、ということになりかねない。

 必要性が高く、走行にも難易度の低い地方部のほうが、逆に自動運転の普及が遅れるという、需要と供給の思惑違いが起こることが懸念される。自民党政府がさかんに「地方の時代」という割には、活性化が起こらないというのでは、話が違う。

 そこで解決策として、現在これらの地域にインターネットサービスを提供している農村型ケーブルテレビ局等のISPに対して、キャリアサービスが始まるまでの一時的措置として、5Gサービスの代替提供を認可したらどうか。農村型ケーブルテレビ局の多くは、自治体が運営している。私企業に任せていたらいつまでもテレビやネットが来ない地域は、自治体自らが動いてそれらを引っぱっているのだ。

 こうした自治体型のISPが、ローカル基地局だけ先に自治体予算で作り、早期に5G網を形成する。のちにキャリアの通信網が来た場合には、既存施設を売却するなり共同運営するなり貸すなりしてコスト回収をすればよい。

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