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ビジネスを変える5G

自室でアイドル“独り占め” 5Gで変わるバーチャルライブ特集・ビジネスを変える5G

» 2018年12月21日 12時20分 公開
[片渕陽平ITmedia]

 「5Gが普及すればバーチャルアイドルのイベントは、参加者にとって究極的にパーソナライズされる」――KDDI ライフデザイン事業本部の中馬和彦さん(ライフデザイン事業企画本部 ビジネスインキュベーション推進部 部長)はそう話す。

 KDDIは今秋、グリー子会社のWright Flyer Live Entertainment(WFLE)とバーチャルYouTuber(VTuber)事業で協業すると発表した。VTuber事業にいち早く参入し「1〜2年間で約100億円規模を投資する」という計画を打ち出したグリーと手を組み、「来る5G時代を見据えた新たな価値体験の創出を推進する」(9月時点)としていた。

photo グリー子会社のWFLEなどがプロデュースしているバーチャルガールズユニット「KMNZ」(ケモノズ)。グリーはVTuberの発掘や育成、動画番組の制作・配信といった事業に力を入れている

 両社が思い描く「新たな体験価値」とは何か。「5Gによってパーソナライズされる」とはどういうことか。KDDIの中馬さん、WFLEの水谷誠也さん(アライアンスマネージャー)に話を聞いた。

「アイドルを“独り占め”」「観客にフィルターをかける」

photo KDDI ライフデザイン事業本部の中馬和彦さん(ライフデザイン事業企画本部 ビジネスインキュベーション推進部 部長)

 VTuberの動画をスマートフォンでストリーミング視聴することは、現状の4Gでも十分可能だ。ただ、中馬さんは「(参加者が)集まってバーチャル空間で行われるイベントに出入りするとなると、5Gは必須の技術になる」と話す。

 日本では2020年に商用化される予定の5Gは、最大20Gbpsの高速・大容量の通信に加え、ネットワーク遅延が少なく、多くの機器を同時接続できることが特徴だ。将来、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)技術を使ったスマートグラスが普及し、固定回線がない外出先で、バーチャル空間で行われるイベントに“動きながら”参加するとなると、5Gの強みが生きるという。

 中馬さんは「ただ見るだけならストリーミング視聴でいい。しかし(5Gがなければ)参加者のアバターが『イエーイ!』と盛り上がっている状態や動きを発信するのは難しい」と説明。水谷さんは「自分たちが(イベントを視聴するだけでなく)参加したときに実現できることが増える」と期待を寄せる。

 KDDIは、VR・AR関連だと、VR空間にイベントスペースを立ち上げられるサービス「cluster」を運営するベンチャー企業のクラスター(東京都品川区)にも出資している。「(こうした取り組みは)全部つながっている。通信キャリアは、そうした時代が早くやってくるようにサポートする役回りを担う」と中馬さんは説明する。

 5Gによって、参加者の状態をリアルタイムで動かすことで、個々の参加者が「観客にフィルターをかける」ことも可能になる、と中馬さんは想像する。リアルのイベント会場とは違い、バーチャル空間上なら全員が同じ映像を見る必要はない。中馬さんは「実際は老若男女が参加していても、自分にはお姉さんしかいないイベントに見えるようにすることもできる。イベントがパーソナライズされる」という。

photo WFLEの水谷誠也さん(アライアンスマネージャー)

 水谷さんは「もちろんアイドルがステージ上にいる見せ方もできるが、設定を変えると、自宅の部屋の映像に切り替わり、自分とアイドルだけの空間になる――という“独り占め”もできるだろう。バーチャルの強いところだと思う」と話す。

 またイベント参加者の血圧、心拍数などのデータを収集することで「興奮するとバーチャル空間上のアバターが大きく膨らむ」といった演出ができると、中馬さんは笑う。ビジュアル化することで、「何となく雰囲気で盛り上がっている」という感覚をよりリアルなものに変えていく考えだ。

「街の隅々に通信が入っていく」時代を見据えて

 5Gが普及すると、モバイルネットワークは携帯電話のためのものとは限らなくなる。中馬さんが「街の隅々に通信が入っていく」と表現するように、あらゆるモノがインターネットに接続するIoT時代が本格到来しそうだ。

 中馬さんは「ガラケーからスマホになってタッチUI(ユーザーインタフェース)が登場したように、街の隅々に通信が入っていく世界を想像すると、『しゃべる』『(実際には何もないところで)ジェスチャーをする』といった操作方法が浸透するのではないか」と考えている。

 そんな世界でスマートグラスなどを使ったとき、空間上などに自分を表現する方法としてアバターが必要になるという。ただ、中馬さんは、欧米人と比べて日本人は「リアルアバターが嫌い」と分析。現実世界の自分をそのまま再現したアバターではなく、VTuberのように分身を持つ時代になると想像している。

 「KDDIは、社会インフラを作る会社なので、そうした技術が広がったとき、どのようにすれば使いやすいかを考えている」(中馬さん)

 KDDIがインフラ会社としてアプローチする一方、グリーはコンテンツ制作、そして一人一人がVTuberのようにアバターを作れるプラットフォームを用意するというアプローチをとっている。WFLEは、スマホでアバターの作成とライブ配信ができるアプリ「REALITY Avatar」(iOS/Android)を公開している。

photo スマホでアバターの作成とライブ配信ができるアプリ「REALITY Avatar」

 水谷さんは「VTuberの認知は広がっているが、まだ一部。VTuberの活躍の場を広げながら、興味を持った人が自分でバーチャル化できるよう進めている」と話している。

 KDDIが5Gというインフラ整備、グリーがコンテンツ・配信プラットフォームの提供をそれぞれ進めていく中で、「自分もVTuberになりたい」という人が増え、さらに演者(アイドル)だけでなく、視聴者を含めた全員が「アバターを持つのが当たり前」の時代が来る――そんな未来はそう遠くないかもしれない。

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