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競合と共存 CESで見た「プラットフォーム戦争」最新局面(2/3 ページ)

» 2019年01月28日 18時10分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

 ではライバルはどうか? 2018年のCESで、Amazonは存在感がなかった。だが今年は違う。Googleほどの規模ではないが、サブ会場であるVenetian Hotelのボールルームの中でももっとも大きい部屋を借りて、Alexaをアピールする専用ブースにした。

photo CES 2019でのAlexaブース。Googleに比べると規模としては小さいが、存在感は強かった

 CESのどこに出展できるか、という「場所割り」は早期に(主な場所は会期中に翌年分のものが決まる)決定してしまう。それに、こういう展示会の常として、継続して参加しないと発言権もいい場所も得難いものだ。おそらくAmazonとしては、いきなりGoogleと同じ規模、というわけにもいかなかった、という事情もありそうだ(そうする意思があったかまではわからないが)。

 そして、CESに出展していない企業もそこに割って入る。Appleだ。ラスベガスコンベンションセンター内からGoogleブースの方向を見ると、その上にモノレールが走っている。そしてさらにその上をみると、なんと背景にあるホテルの壁には、Appleがプライバシーについての広告を出していた。もちろんこれは偶然ではなく「狙った」ものだ。Googleは広告を軸に収益を得る会社だ。音声アシスタントの処理もクラウドにデータを集約してから行なっている。だがAppleは、あくまで端末とサービスの販売で収益を得る会社であり、音声アシスタントを含む処理も、個人情報をクラウドに集約せず端末内で行なっている……ということをアピールするのが狙いだ。

photo Googleが「Hey Google」をアピールする上に、Appleの巨大なプライバシー広告が

 Appleの主張については、Googleの側にも反論があるようだ。まあそれは別の話としても、CESという場で「個人の情報アクセスを扱うプラットフォーマー」が衝突しているのは明白だ。

 これらの企業は、家電においてはどちらかといえば黒子のようなところがあったが、もはやその印象はない。往時の「HD DVD対Blu-ray」を思い出させるようなアピール合戦が前面に出ていた。このこと自体が、家電という世界が様変わりしたことを明確に示している。

「スピーカー」を超える音声アシスタントの普及

 家電企業としてのAmazon・Googleの勢いは大きい。アメリカにいれば、ショッピングモールには必ずといっていいくらい、EchoやFireタブレットを売るAmazonの出店がある。Googleのリアル店舗への展開はそこまで激しくないが、ニューヨークなどには、Googleのハードウェアを売る直営店もできている。低価格なタブレットやスマートスピーカーを軸に、両社はこの2年、家電業界での影響力を高めてきた。

 一方で、自社が売るスマートスピーカーなどが「このまま売れ続ける」と思っているわけではないことも事実だ。CESの主催者であるCTAの予測によれば、2019年のスマートスピーカーの販売予測は、前年比で7%増に過ぎない。それでも多い、と思われるかもしれないが、過去2年は倍々ゲームで増えてきたのだ。急減速といってもいい。これは、製品としての価値が落ちたというよりも、あまりに急速に普及し過ぎて、アメリカの家庭に行き渡ってしまった……という側面が大きい。スマートスピーカー単体でハードウェア面でのイノベーションが続いているわけではなく、価値の進化はほとんどがクラウド上にあるわけで、買い替えの需要もない。

 だからこそ、各社はライセンシングに力を入れている。色々なデバイスに音声アシスタントの機能を搭載していくことが今後の拡大の主軸であり、そうなると、自然とGoogleやAmazon自身の製品が占める割合も減っていく。だからこそ、2社のアピールも「パートナーデバイスとの連携と広がり」に集中していた。ITの世界では当たり前の展開だが、家電の世界では(まだ)珍しいパターンとも言える。

 Amazonは昨年秋、家電への組み込みを簡素化する「Alexa Connect Kit(ACL)」という技術を発表している。家電をAlexa対応させるために必要なチップと、Wi-FiとBluetoothがセットになったモジュールを手に入れることができて、1台あたり数ドルのコストで「Alexa対応家電」が作れる。Googleもこれに対抗した「Assistant Connect」をCESで発表し、2019年後半に詳細をアナウンスする。

 家電に「コネクテッドデバイス」としての機能が求められ始めているのは間違いない。現状、「家電がコネクテッドデバイスになった時のキラーアプリがあるか」と言われれば、ない。それは家電メーカーも、GoogleやAmazonも認めざるを得ない点だろう。

 スマートスピーカーは、アメリカではまず「ストリーミング・ミュージックを聞くデバイス」でブレイクし、「ちょっとしたことを音声で検索する」「タイマーをセットする」といった用途でも有用なことが認められた。家電では、まだ明確に「ここが重要」という誰もが認める要素が出来上がってはいない。あえていうなら、監視カメラ連携くらいだろうか。

 だが、だからこそ「音声アシスタント連携」が重要、という部分がある。

 音声アシスタントはクラウド側に価値があり、機能のアップデート対応がしやすい。さらに、機器の側にディスプレイを埋め込む必然性はなく(もちろんあった方が便利だが)、対応コストを小さくできる。蛇口や照明にディスプレイをつけるのはナンセンスだが、そこに「喋ってなにかしてもらう」ことができるなら、将来的に価値が高まる可能性は高い。しかも、ハードウェア的なコストは、いまや高いものではない。

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