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競合と共存 CESで見た「プラットフォーム戦争」最新局面(3/3 ページ)

» 2019年01月28日 18時10分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
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「共存」を許容しつつ激化する戦い

 とはいえ、多くの企業は「複数の音声アシスタントへの対応」を検討しているのが実情だ。

 音声アシスタント・プラットフォームの開発は大変だ。GoogleとAmazon、Apple以外で勝ち目がありそうな企業はほとんどいない。Samsungは独自に「Bixby」を展開し、中国系企業も独自アシスタントを開発している。だが、正直BixbyがSamsung製品以外に広がると考える人は少なく、中国系のソリューションも、あくまで「中国という巨大だが孤立した市場」があってのものだ。

 もはや今から音声アシスタントの分野そのものでプラットフォーマーを目指すよりも、彼らをプラットフォームとして使って分業するのが良い……というのが、明確なトレンドとなっている。

 CES会場に来ていないAppleも、その点でのアピールは欠かさない。今年のCESに合わせ、アメリカテレビ市場のトップシェア4社である、ソニー、Samsung、LG・VIZIOのテレビが「Apple製品連携」の機能を強化した。春以降にアップデートし、AirPlay 2を中心とした機能が実現される。

 テレビだけに映像系が注目されるのだが、同時に「HomeKit連携」も追加されるのがポイントだ。Appleの音声アシスタントである「Siri」からのコントロールや、Appleのスマートスピーカーである「HomePod」との連携も行われる。AmazonやGoogleの派手な戦いに比べるといかにも地味ではあるが、「第三極」として音声アシスタント連携を広げている、とも言える。実際、ソニーなどはこの要素をかなり重視しており、iPhoneのシェアが高い日本では特に有望……と考えているようだ。

 独自路線にいるように見える企業でも、実は音声アシスタント対応をレイヤー化している例が多い。

 例えばLG電子は、音声認識と機器連携のレイヤーではAmazonとGoogleの機能を使いつつ、自社製品の連携には、さらにその上に解釈と連携のレイヤーとなるAIである「ThinQ」を加えて差別化している。あまり知られていないが、シャープも同社のAIoTプロジェクトである「COCORO+」では、音声認識と連携・解釈のレイヤーが別になっており、他社の音声アシスタント・プラットフォームと同居できるようになっている。シャープの場合、今は音声まで自社でやっているが、それが必須の構造にはなっていないのだ。

 家電の音声アシスタント連携はこれから本格化するジャンルだ。プラットフォーマーとしては「自社陣営で占有したい」と思っても、メーカー&消費者目線でいえば、「どこかのものしか使えないのでは、選択肢が狭められて安心して買えない」という意識になる。家電を音声アシスタント連携させるための技術的条件はどこも似ているので、多数の企画に対応させるのは難しくない。ソニーによれば、「GoogleとAmazonに対応すれば、スマートホーム系プラットフォームとしては84%のシェアになる」という。ならば、両方対応しておけば安心だし、Appleも追加できるならそれに越したことはない……、という発想になる。

 そもそも、そのことをAmazonやGoogle自体も、ある程度許容しているのだ。

 筆者は、Alexa Devicesバイス・プレジデントのミリアム・ダニエル氏に、CES会場でインタビューを行なっている。そこで他社競合と共存について問うと、このような答えが返ってきた。

 「音声ユーザーインタフェースの世界は初期段階であり、複数のものが併存し、競争するのが自然な状況。対応家電において複数の音声アシスタントが使えるのも同様です。要は、PCにおいて複数のウェブブラウザが搭載されていて、選べる状態であることと同じ。今は、選べないよりは選べる方がいいはずです。その中で、Alexaを選んでくれる方が増えるよう努力します」

 この回答はなにも社交辞令というわけではなく、本音なのだろうと思う。戦いは始まったばかりで、最初から「占有」ばかりにこだわっても意味はない。音声アシスタントの普及は、スマホの普及に匹敵する長期戦だからだ。

 マーケティングによる戦いはその一部であり、さらに背後では、音声解析および文脈理解の競争が進んでいる。認識はもうかなりのレベルであり、重要なのは「人の意図をどう理解し、スムーズに会話を続けるか」ということになっている。また、自動車の中など、音声アシスタント自体の浸透がこれから、という部分もある。囲い込みよりも、「名前を売った上で技術を磨く」というのが今のフェーズなのだろう。

 こうしたアメリカの状況は、必ず日本にもやってくる。そこで「日本の環境」ではどういう風に受け入れられ、どこにビジネスの核が出来上がるのだろうか。

 日本では、スマートスピーカー自体の普及がまだまだ始まったばかり。アメリカのように「音楽」で家庭に入れる状況でもなく、「日本語」の難しさに伴う課題もある(実際には、言語の違いではなく、言語の利用者の量の違いによる事情が大きいのだが)。

 違いを理解した上で、どのようなシナリオがあり得るのか、考えていく必要がある。

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