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「スクショもNG」で広がる混乱、合法と違法の線引きは? “違法ダウンロード対象拡大”の問題点(4/4 ページ)

» 2019年02月14日 15時30分 公開
[村上万純ITmedia]
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誰が、何のためにやる法改正?

 そして院内集会でも強調されたのが、「誰が何のために行う法改正なのか?」という点だ。

 まとめると、以下のような問題が挙げられる。

  • 被害者であるはずの漫画家自身が難色を示している
  • 影響範囲が大きく、ネット利用者の多くに混乱を招いている
  • 特定のダウンロード行為に対し、合法か違法かを判別する条件が複雑すぎる
  • そもそもアップロードされているコンテンツが合法か違法かの判別が難しい
  • 「違法と知りながら」の証明が事実上できない
  • 漫画村のようなストリーミング方式のサイトには効果がない
  • 12年の法改正以降も摘発例はなく、今回の案も実効性がない可能性がある

 院内集会では、大屋教授が「実効性のない法改正に意味はない」とバッサリ切り捨てた。赤松さんは「文化庁の事務局が突っ走っている印象だ」と語ったが、丁寧な議論がされないまま改正案の検討が進んでいるという印象は否めない。

 12年の法改正以降に摘発例がないことを引き合いに「実効性がないなら、問題ないだろう」と軽視する見方もあるかもしれないが、楽観視はできない。大屋教授が懸念するように、刑事罰の対象になる非親告罪のケースでは、捜査当局が違法の網を広げて“怪しいとされる人物”に嫌疑をかけ、別件の捜査を進めるという“悪用”の可能性も否定できない。

 藤本教授も「今後どういった人間が権力を握り、どのように法を運用するかは分からない。法律自体に抑止力がなければいけない」と警鐘を鳴らした。多くのネット利用者の萎縮を招くことが容易に想像されるため、刑事だけでなく民事の場合も慎重に線引きを行う必要はあるだろう。

 誰もが「漫画家たちに被害を与える海賊版サイトを規制すべき」という同じ目標に向かっているものの、政府の動きは何かと“性急過ぎる”と感じてしまう。それは今回の件に限らない。

 海賊版サイト対策をめぐっては、18年に内閣府 知的財産戦略本部の検討会議で行われた「サイトブロッキング」(アクセス遮断)の議論が記憶に新しい。賛成派と反対派の激しい意見対立が続き、最終的には議論はまとまらず“空中分解”した。

 サイトブロッキングのときは、憲法違反や電気通信事業法違反の可能性が指摘され、立法化に至らなかった。院内集会で赤松さんは「ブロッキングがうまくいかなかったので、代わりに今回の違法ダウンロード対象拡大の話が出たのでは」とも指摘している。

 また院内集会では、12年の法改正や昨年のサイトブロッキング、今回の違法ダウンロード対象拡大などで、「当事者(被害者・権利者である漫画家など)が置き去りにされたまま政府が強行に議論を進めているのでは」という疑念の声も上がっていた。

 院内集会で登壇した漫画家の竹宮惠子さんや赤松さんは、今回の改正案によって二次創作の文化や漫画ファンのコミュニティーが崩れることを望んではいなかった。違法ダウンロード対象拡大によって、多くのネット利用者だけでなく、こうした漫画家とファンのコミュニティーやそこで生まれた文化まで大きな影響を受けてしまうことを念頭に置き、慎重な議論を進めるべきだろう。

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