中央の垂直な線を境に左側が右側より暗く感じます。ところが、そう見えるのは目の錯覚で、本当は同じ明るさです。例えば中央の垂直な線を指かペンなどで隠してみてください。両脇に広がる領域が同じ明るさであることが分かります。実際に輝度のグラフ(下図)を見ると、中央の垂直線の部分から少し離れたところの輝度は、どこも同じ値になっています。
中央の垂直線の部分はというと、中央に輝度の不連続なジャンプがあり、その両脇では輝度が急激ではありますが、滑らかに変化して周囲と同じ輝度になっています。たったこれだけのことで、左側は全ての面にわたって一様に暗く見える一方、右側は一様に明るく見えるのです。
ところで、クレイク・オブライエン・コーンスィート効果は学術的な研究をクレイク氏(1966年)、オブライエン氏(1958年)、コーンスィート氏(1970年)らが20世紀半ばに発表しています。ところが、このような効果はそれよりもはるか昔、紀元1000年頃に中国の宋朝で作られた白磁にも経験的に使われていたそうです。白磁にはデザインの輪郭の部分に、鋭い内縁と滑らかな勾配を持つ外縁を付けて、模様を背景よりも明るく見えるようにしたものがあるということです[F, p.141]。
さて、2008年に高島翠氏が、クレイク・オブライエン・コーンスィート効果を生むエッジとは違う形のエッジにより、やはり輪郭の両側で違った濃さに見える錯視効果を発見しました。「墨絵効果」と呼ばれているものです。ここでは墨絵効果を使った千鳥格子模様を作成しましたので、それをご覧いただきましょう。
デザインの輪郭部分に明と暗の段差をつけていますが、これが墨絵効果をもたらすものです。明の側に接する領域が明るく見え、暗の側に接する領域が暗く見えます。もちろん両側とも同じ明るさです。墨絵効果とクレイク・オブライエン・コーンスィート効果のそれぞれの特性については北岡明佳氏が著書[K]で分析をしています。それによると、クレイク・オブライエン・コーンスィート効果はエッジを段差的にすると弱くなり、一方、墨絵効果では輪郭を直線的にすると錯視効果が弱くなります。
それでは同じ千鳥格子のデザインを使って、クレイク・オブライエン・コーンスィート効果ではどのようになるのかを実際に見ていただきましょう。
さらに新井仁之と新井しのぶは、エッジの形状に工夫を加えて効果的な錯視を作れるようにしました。その1つの例が冒頭で紹介した「いのしし年の錯視」です。そのエッジの形状は、クレイク・オブライエン・コーンスィート効果とも墨絵効果とも異なり、輝度が変化するところでも不連続的なジャンプをもたず、滑らかさを保って急峻に変化するようにしてあります。
このエッジの形状をクレイク・オブライエン・コーンスィート効果や墨絵効果と区別するために便宜上、新しいタイプのエッジと呼ぶことにします。新しいタイプのエッジで千鳥格子の錯視を作るとどうなるかを見てみます。
これをクレイク・オブライエン・コーンスィート効果や墨絵効果を加えた千鳥格子と比較すると、新しいタイプのエッジを使ったものは、墨絵効果ほど縁の変化(強い段差)が目立たず、しかもクレイク・オブライエン・コーンスィート効果より強い錯視効果が出ていることが分かります。
さらにこの新しいタイプのエッジを使うと、色の濃さを明と暗だけでなく、何段階にも多様な濃さにしたり、輪郭と輪郭が複雑に交差しているところでも良い錯視効果が出るようにしたりすることが容易にできます。例として冒頭で紹介した「いのしし年の錯視」よりも輪郭が入り組んだデザインを作って、それを錯視画像に変換してみます。
4つの異なる濃さからなるように見えますが、輪郭の部分を除いてみな同じ濃さになっています。輪郭の部分を隠すとどうなるのかは、デモ動画がありますので、以下をご覧ください。
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